第4話 とある冒険者視点
俺はテーゼ。
ギルド『飛翔』のエースパーティーであり、まぎれもなく大陸屈指の冒険者だという自負がある。
そんな俺と行動を共にしているのはニナ、クルド、エセーリアだ。
それぞれと出会った経緯は違うが、今では『白来』というパーティーを結成しており、長年の付き合いから家族のようなものだと思っている。
今日は彼らとダンジョン攻略に臨んでいる。
大迷宮ほどのダンジョンではなく、あくまでも中型程度のダンジョンだ。今日はただの肩慣らしのつもりだったのだけど……
「よお、久しぶりだなあ」
スキンヘッドに派手な入れ墨をしている男が現れる。
特徴的な見た目以上に、俺には嘲るような口元が気に入らなかった。
ギルド『向かい影』のエース、レゲだ。
「奇遇だな。おまえもこのダンジョンを攻略に来たのか?」
「いや?」
明瞭な答えを出さない。
不穏な雰囲気を醸し出しながら、レゲはゆったりと近づいてくる。
「おい! それ以上近づいてくるんじゃねぇぞ!」
クルドが言う。大柄な身体に相応しい、威圧的で轟くような声だ。
彼の声は魔物さえ怯えるのだが、レゲは意にも介さない。
「そんな言い方はひでえな。仲良くしようぜ」
「仲良くって……それはごめんなんだけど」
ニナが言う。どうやら生理的な嫌悪感を覚えているようだ。
たしかに、こんなダンジョンで仲良く気軽に談話なんて雰囲気にはなれそうにない。
「きひひっ、振られちまったなあ。なら仕方ない。頑張って仲良くなるかあ」
「だから、あんたなんかと――」
ニナが言いかけて止める。周囲から息を潜めていたやつらが出てきて、思わずその数に怯んだのだ。
彼らの顔ぶれには見覚えがある。『向かい影』総勢三十五名だ。
「お頭ァ……俺達も仲良くしてえなあ」
「きひひ、俺の後でならいくらでも楽しめよぅ」
「よっしゃああ!」
唾棄すべき会話が繰り広げられる。その対象は明らかにニナやエセーリアに向けられていた。
ここまで来れば明らかに敵意を持っているとわかる。
「一応聞いておく。襲撃する理由はなんだ?」
「余裕だねぇ、さすがはトップギルドさんだ。ま、理由なんて簡単だよ。あんたら目障りなんだ」
「目障り?」
「そ。うちらも苦しくてねぇ。仕事が回ってこないと飯もまともに食えやしないんだ」
「おまえ達はトップギルドのはずだろ。金に困るなんて考えられないな」
「いいアクセサリーにいい飯、それから女。金なんていくらあっても困らねえだろ?」
レゲがにやりと黄ばんだ歯を見せる。
以前から抱いていた嫌悪感は正しかったようだ。
「……極力殺し合いなんかはしたくないんだがな」
「こっちはしたい」
「しょうがないか」
構える。
数は多いが、こちらとしても腕に自信はあった。
場合によっては逃げ出すくらい訳もないはずだった。
そうすれば仲間を呼べるはずだった。
それなのに――
――どうして。
「――やめて!!」
ニナの叫び声が聞こえる。
やつらに捕まっている。
クルドもエセーリアも石を投げられて遊ばれている。
俺はレゲに踏まれながら地べたにはいつくばっている。
どうしてこんなことになっている。
簡単だ。
「魔力が……どうして……!」
「きひひっ、魔法が使えないって? 身体の強化もできないって? これ、なんだと思うよ?」
レゲがこれ見よがしに歯車の形に透き通った魔石を手に持つ。
それはきっと魔法具の類だ。
しかし、見たことがない。一般に流通しているものではない。
「それはなんだっ!」
「これは奉天総の魔法具だ。名前は『魔封じ』というらしい。その名前のとおり魔力を封じる。ま、距離の縛りはあるんだけどよ」
「魔力を封じる……?」
そんなもの聞いたことすらない。
奉天総クラスなんて、そもそもお目にかかることすら珍しいのだから、当たり前といえば当たり前だ。俺達のギルドでさえ、以前に一度だけ獲得したことがあるくらいだ。
「魔法のなくなった生き物はどうなると思う? ……って、身をもって体験してるよなぁ。それぞれの個体に強さの違いが出なくなる。で、こうして数の暴力に襲われるってわけだ」
レゲがニナの頬を舐めた。
「きゃあっ」
ニナが涙を流しながら悲鳴を漏らす。
怒りが湧き出る。
「やめろ! ニナを離せっ!」
「うるせえよ!」
「ぐ……っ!」
レゲの蹴りが腹部に強烈な痛みをもたらす。
普段ならこんな攻撃大したことないのに。魔力がないだけでここまで違うのか。
「さて、と。おまえらさえ始末できれば後は残りの『飛翔』メンバーを削っていけばお終いだ。ま、その前にニナちゃんとエセーリアで遊ばせてもらうけどな。きひひぃ!」
絶望が身体を走る。
なんでこんなことになっている?
どうしてそんな魔法具がある?
ふざけるな。
なんだよ、これは。
怒りが湧いてくるのに、身体に力が入らない。
なんでだよ。くそ、くそ!
「――へぇ、これ奉天総の魔法具なんだ」
「「……!!??」」
突然、声が響いた。
どこから。気配もなかった。
黒い髪に黒い瞳、中肉に長身の少年だ。
かなり整った顔立ちをしている。
黒い剣を持っていて、立ち居振る舞いに隙がない。
俺はこの子を知っている。
以前にギルドに来ていた子だ。
アドマト公爵家の嫡子、フェゼ。
なんで、ここに。
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