第3話 不穏な声の導く先
――その光景を見て、ケウラは顔を青ざめさせながら言う。
「か、帰りましょう」
他の面々も同じ意見のようだ。
その場はおそらく何かしらの魔物の巣穴だったのだろう。既に寝床などもなくなって綺麗になっており、代わりに虚しい大きな空間が広がっているだけだ。
四人の男女が、三十人を超す集団に襲われている。
「ちなみにケウラさんはこの状況わかりますか?」
「トップギルドの争いですよっ」
さっさと帰りましょう、そんな言外が伝わってくる焦り具合だ。
「トップギルドですか」
「そうです。少数の方はギルド『飛翔』のエースパーティ『白来』で、大集団の方はギルド『向かい影』ですっ」
両方とも聞いたことがある。
ギルド『飛翔』の方は依頼できればいいなーと思っていたが、残念ながら断られた。一般の依頼は引き受けているようだが、俺が身分を明かすと露骨に嫌悪感を示されて拒否された。
ギルド『向かい影』の方は悪い噂ばかりで行くことすらしなかったな。
「ギルド同士が争ってなんの意味があるんですか? 縄張り争いとか?」
「知りませんよっ。もういいでしょう……!? ここは速いところ引いた方が得ですっ!」
「逃げたいなら逃げてもいいですよ」
俺はしばらく見ていたい。
事態を見届けたい気持ちもあるが、ギルドのトップクラスといえば大陸でも屈指の実力者たちだ。場合によっては大国から将軍待遇でのスカウトもあるくらいだと聞いている。
と、なれば鍛えている俺からすれば勉強になる。
……ケウラ達が黙る。完全に声が聞こえない。
彼らも考えているのだろう。彼らもまだ強くなりたいと志しているのだ。俺の意思が通じたようで何より。振り返って彼らの瞳を見ようとして――人っ子一人いねえ。
誰も何も喋らずにそそくさ退散しやがった。いや逃げていいって言ったけど依頼人だぞ。もしもこれで俺が死んだらケウラ達の評判に関わるはずだろ……。
まぁそんなことを言っても仕方ない。ここまで付いてきてくれただけありがたいと思うべきだな。
逆に言えば、ここまで付いてきてくれたのにすぐ退散するほど、これは恐ろしい状況なのだ。
下手をすればダンジョン崩壊の危険があるレベルなのだろう。
――なんて思っていたが。
随分と一方的な戦いだった。
いや、もはや戦闘ではない。
なぶり殺しだ。
トップギルド『飛翔』ともあろう者達が反撃すらできていない。
ひとりの女性は捕まっており、ひとりの男性は組み伏されて足蹴にされている。
なんとか反抗しようと他の二人も頑張ってはいるが、複数を相手に手こずっていた。
(なんだこの戦いは)
トップギルドが聞いて呆れる。――なんて思わない。
これは明らかにおかしい。
見ると『向かい影』のリーダー的ポジションの男の手に魔法具が握られていた。
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