第7話 マモン商会

 再確認する。俺の目的は帰還だ。そのために魔法具を探している。

 だからリスクを負ってまでダンジョンに潜り、依頼をしていた。

 そして幸運なことに今回からトップギルドに依頼をすることができるようになり、リスクを負う必要がなくなった。

 わざわざ俺が出張る必要がなくなったからだ。


 しかし、その依頼料金が莫大すぎる。

 開天神代級の魔法具となれば目標が大型ダンジョンになり、依頼料も計り知れない。

 それにトップギルドひとつだけに依頼するのでは時間がかかってしまう。下手をすれば俺の寿命が先だ。

 だから他にも依頼したいところは大勢ある。

 手持ちの私兵も作りたいくらいだ。


(金が足りない)


 定期的に父親からお小遣いが渡される。

 それ以外にも、ねだれば多少の金銭は融通される。

 さすがに公爵家の嫡子ともなれば金額も桁外れになってくる。

 まともな金銭感覚を持っているから良かったけど、普通の城下町の家庭なら一年は暮らしていける額が支給されているくらいだ。

 それでも足りない。

 ということで俺は商会に訪れていた。


「はぁ……で、ご用件は?」


 とても素晴らしく態度が悪い。

 男はため息交じりに視線も合わせずに話している。

 ちなみに俺がアドマト公爵家の嫡子だと伝えているのにこれだ。


 ここはマモン商会。

 アドマト公爵家の領地で最大手の商会内部の一角だ。

 一角とはどういうことか。

 マモン商会は内部の競争を高めて売り上げを伸ばす手法をとっており、第一区分から第十区分まで分けられている。

 それぞれの区分の代表も違い、第一区分はマモン会長が直々に陣頭に立っており、以下は第二区分と続いている。


 そして、俺は第二区分に来ていた。

 第一区分でもよかったが、マモン会長は父と取引をしている。

 既に家との商売を始めているのなら、あまり父の邪魔をしたくはない。

 あの父の性格からしたら何かと面倒を見てくれるだろう。しかし、こちらとしてもあまり過干渉でいられては困る。

 だから今回は別離した経済主体を持ちたいと考えていた。すなわち家に関わることではなく、独立した企業を持つことだ。

 とはいえ見た目の年齢は非常に若い。さすがに身分は伝えた上でまともに話を聞いてもらいたかったのだが、どうにもうまくいかない。


「……仕事を任せたいと思っているのですが」

「ふーん。あのさ、子供の用事なら家の人に頼めないかな?」

「は?」

「いいかな。うちはアドマト公爵家に多大な税金を払っているんだよ。それが滞るようなことがあれば家の人にも迷惑をかけちゃうんだよ」


 これは説教をされているのだろうか。

 ……なんで?

 まだ話してすらいないのに。


「今日はビジネスの話に来たのですけど」

「はいはい。そう言ってお小遣いをせびりに来る貴族の子弟は多いのよ。ちなみに俺は商会の下っ端。わかる? どうして俺が来ているのか。適当にあしらえってことなの。理解しなよ」

「……」

「公爵家の嫡子だから優遇されると思った? こうやって一人でのこのこ来てさ。家の人にもまともに扱ってもらえていないんでしょ。お遊びしたいなら適当に散歩でもしてなよ」


 すごい。俺は逆にこいつを尊敬する。

 公爵家の嫡子だと認識してこの態度だ。

 我らがテストリア王国は王権の絶対性は維持したまま、貴族が政に関わる体制を取っている。

 つまり貴族にも権力があり、領土の分であれば法も自由だ。


(俺の一存で処刑できるんだけど……)


 建前の上ではノブレス・オブリージュを持っているが、そんな高い志を基準に行動している人間は少ない。

 こんなあからさまな挑発をされて腹が立たない方がおかしい。

 ……まぁそんなことをするメリットはないからグッと堪える。それに、わざわざ脅したり注意したりするほどの良心もない。

 ここまでハッキリと相手にしないと物申してくれただけ感謝するべきだな。もちろん皮肉だが。


「わかりました。お邪魔しました」

「はいはーい」


 俺よりも先に席を立って離れる。

 最後まで一貫してなんとも見事なことか。思わず拍手をしたくなったよ。

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