鏡の向こうの聖女シロ

氷室凛

プロローグ

 左手に鞘、右手に柄。身体の前で聖剣を構えた私は、ゆっくりとそれを引き抜いた。

『いいんだな、シロ。私を抜いたらお前はもう元の世界に帰れないぞ』

 その直前、聖剣さんが私に語りかけてくる。最終確認、というやつだろうか。私はなにも言わずに頷いた。

『そうか、ならばよし!』

 聖剣さんは高らかに言い、それと同時に手にあった何かが引っかかっているような感覚が消えた。

 聖剣が引き抜かれる。

 細かな装飾がされた豪華な鞘から、白銀の刀身が顔を出す。そしてその刀身から、まばゆいばかりの真っ白な光が放たれた。

「ぎゃあああ……」

 闇の軍勢たちの悲鳴が聞こえる。兵隊さんたちがあれだけ苦戦して、数人がかりでやっと一匹倒せるような魔物たちが、光を浴びただけで断末魔と共に次々と灰になっていく。

 その光景を目の端に映しながら、私はやっと聖剣を抜き切った。すらりと美しいそれを頭上に掲げる。あんなに重かったのが嘘みたいに、その柄はぴたりと手になじんでいた。

 光がいっそう強くなる。

 聖剣から溢れ出るそれは波のようにうねりながら、瞬く間に街を、国を、そして世界を包み込んだ。

 闇の軍勢の真っ黒な身体さえもう見えない。

 見渡す限りの、白、白、白。

 真っ白な光の海に沈んだ街を眺めながら、私は目を細めた。

 これで本当に、私は元の世界に帰れない。

 ……でも、いいんだ。もう決めたから。

 私は聖女シロとして、この世界で生きていく!!

  

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