01.3 カワウソいじめはやめろ!


カキン。



刀同士がぶつかる甲高い音が響いた。


瞑っていた目を少しずつ開くと、アタッシュケースから飛び出し、さっきまで地面に刺さっていた刀が、いつの間にか私の目の前に現れていた。

その刀は空中に浮きながら、鷹凪さんの刀を受け止めていた。


「お前、何をした!?」


鷹凪さんは物凄い血相で、私の顔を睨みつけて言った。


「私、何もしてません!!」


私は両手を全力で振り、否定する。


「倉戸!!」


鷹凪さんは私の否定を無視し、睨みながらそう叫ぶと同時に、倉戸さんの気配が後ろからした。

振り返る時間なんてなかった。

そんな瞬間に、刀はまた動いた。


「ぅおっ!!」


刀は、受け止めていた鷹凪さんの刀を横に振り払った後、そのまま回転し、柄を私の足に引っかけた。


「わ!」


柄にかけられた重い力に、たまらずずっこけた私の頭上を倉戸さんの斬り払った刀が空を切る。


「何なの!?この刀!?」


倉戸さんと鷹凪さんはそのまま横たわる私に向けて刀を振りかぶったが、自動で動くその刀は二人の刀をいとも簡単に、カキン!と音を立て、また受け止めた。

まるで刀が、私を守っているように思えた。


「おいおい!何してんだ二人共!!」


最近どこかで聞いたことのある声が聞こえた。

二人が声のする方へ視線を向けた。


「何カワウソいじめてんだ!カワウソいじめはやめろ!!」


その言葉で空気が一変した。

虎太郎さんが戻ってきていたのだ。


「いや、カワウソじゃないです!!」


「虎太郎離れろ!!このカワウソ、人の手無しに勝手に動く不可思議な刀を操る!」


鷹凪さんがそう言うと、虎太郎さんは不思議そうな顔をして言った。


「はあ!?いいからそのカワウソいじめんのやめろ!仮にも自衛隊だろおめぇら!!また無能と疑われるだろ近所によ!」


虎太郎さんは真剣な眼差しを向けながら私達の間に入ってきた。


「無能と疑われてるのはお前だ!虎太郎!!」



カラン…。



二人の口喧嘩を止めるかのようにその音は鳴った。


私の守っていた刀は糸が切れたかのように、空中から地面に落ちた。

鷹凪さんと倉戸さんはその様を見て、ポカンとしていた。


「なんだ!?急に動かなくなったぞ?この刀?」


「はあ?お前ら頭どうかしたのか?」


鷹凪さんと倉戸さんはオドオドしながら持っていた刀の先端で、動かなくなった刀をツンツンと突き始める。


「座礁した魚を木の棒で突っつくガキか!」


虎太郎さんは鷹凪さんの頭をパンと叩き、見事なツッコミをかました。


「刀が勝手に動くかよ!ていうかその刀誰のだよ!俺のか!?」


「お前は家に忘れてきたって言ってただろ!」


鷹凪さんは虎太郎さんの頭をパンと叩き、これまた見事なツッコミをかました。


「おいカワウソ!どういうことか説明しろ!この刀はなんだ!」


鷹凪さんは刀の先端を私に向けながらそう言った。


「ほんとに何も知らないんです!あのアタッシュケースにそんな物騒なもんが入ってたなんて!ただ私はあの中に私の携帯やら財布やら入ってると勘違いして、持ち歩いてただけです!でもわかりました!私のじゃないです!間違いないです!」


「じゃあ一体これはなんっ…、あっ!」


鷹凪さんが話している最中、足元に落ちていた刀がカタカタと音を鳴らし、揺れ始めていた。


「ほら!虎太郎見ろ!動いてる!!動いたぞ刀が!見ろ!」


「死んでると思ったら生きてる虫見て興奮するガキか!風だよ!!」


しかし、風は吹いていない。

刀は少し空中に浮いた途端、方向転換し、アタッシュケースの元へすごい速さで移動した。

私達はそれを口を開けながら、目で追うしかなかった。

アタッシュケースは、向かってきた刀を口を大きく開け、食べるようにして受け止めた後、バチン!と閉じた。

その後、しばらく見つめるが、アタッシュケースはピクリとも動かなかった。


「み…、見たか?虎太郎…。」


「………、やっっっっば!!」


虎太郎さんはそのままアタッシュケース目掛けて一目散に走った。


「なんだよさっきの!おい!もっかい見せろ!!ふん!!!」


虎太郎さんは渾身の力でアタッシュケースをこじ開けようとする。

だが、開ける部分が存在しなかったはずのアタッシュケースは案の定、全く開く気配がなかった。


「マジック見せられて種探しに興奮するガキか!」


鷹凪さんはまた華麗なツッコミをぶち込み、虎太郎の襟を引っ張った。


「とにかく、その危険なアタッシュケースを持ち歩いていた以上、持ち主が誰か、理由が何であれ、私達に同行してもらいます。」


倉戸さんがそう言った瞬間、私の両腕にはいつの間にか手錠がかけられていた。


「え!?嘘でしょ!!?」


「おいおいそこまでしなくても…。」


虎太郎さんは止めに入るが、倉戸さんはそのまま話を続ける。


「そのアタッシュケースに納刀されている刀が勝手に動いたのは、カワウソさんの意志か、無意識か、それとも他者の意志か、不明確な事が多すぎる以上危険すぎる為、私達水族自衛隊がそのアタッシュケースを預からせてもらいます。加えて、カワウソさんが現在置かれている状況も不明確です。それらを明確にする為にも、重ねて同行願います。」


「相変わらず頭固いなあ。愛ちゃん…。」


虎太郎はまた胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけながら言った。

煙を吐きながら、続けて言う。


「でもこのカワウソ、手も使わずに刀ビュンビュン動かしてたんだろ?腕にワッパかけたくらいじゃ意味ねえんじゃねえの?」


「あ。」


倉戸さんは目を見開いて、手を口に当てた。


「全く頭カチコチ不器用人間が二人揃うと、ろくな考えしねえなあ…。」


虎太郎さんは私の腕を持ち、かけられた手錠を外し、地面に捨てた。


『このアタッシュケースは俺が責任持って本部まで運ぶ。流転ももう本部に来てるみてえだし、流転に任せようぜ。あと大佐にも話聞いてもらおう。」


虎太郎さんはアタッシュケースを持ち上げ、私の背中をポンと叩いた。


「行こうぜ。流転ってやつがさっき言ってた迷子見つけたらすぐ解決するすげえ奴なんだ。大丈夫!公園の神に任せとけ!」


私は、自称公園の神で、シャチの姿に変身できる虎太郎さんと、水族自衛隊と呼ばれる組織に所属しているらしい鷹凪さんと倉戸さんと自衛隊本部まで同行することになった。


歩くとカタカタと音が鳴り、意外と楽しいと感じた下駄は、今じゃ気持ちの良い音じゃなくなった。




これは、夢ではない。




ガチのやつだ。




私は、本当にカワウソなのか?




真実を知るのが、怖くなった。








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