修行の始まり
それからは何事もなく家へたどり着くと、
砕け散ったブレスレットは、
それが亡くなった今、左手首がスース―してなんだか頼りない。
覚元の部屋に着くと声をかける。
「おじい様。
「おお。そうか。入れ」
「失礼します」と言いながら、部屋に入る。
「おまえの方から来るとは珍しいな。何かあったか?」
「そうか。いよいよその時が来たか」
「その時って?」
覚元は、ブレスレットの
物心がつく前のことだったので、
「おまえの成長とともに霊格が高まり、それに耐えきれずにブレスレットが砕け散ったのだろう」
「では、またブレスレットを作っていただけませんか?」
「いや。わしの力ではあれ以上の物は作れない」
「そ、そんなぁ」
「とりあえず、
「何とかって?」
「幽霊や妖怪の
「そんな、無茶な!」
「とにかく明日からは修業じゃ。修行は朝が良いから、明日の早朝からわしのところに通うこと。良いな」
「はい。わかりました」
「なに。案ずることはない。才能だけからすれば、わしよりもおまえの方が上かもしれん。すぐに身に付くさ」
「はあ……」
(そうだ。あれも相談しておかないと……)
「それから……」
「なんじゃ。まだ何かあるのか?」
「確かに、種に封印されていた、と言ったのじゃな」
「はい」
「伝承では詳しいことは触れられていないのだが、家宝というからにはいかにもありそうな話ではあるな」
その時、
「その危ない男子というのは、俺のことか?」
(えっ! いつの間に?)
覚元は言った。
「そのお姿は! もしや
「そうだ。坊さんだけあって良く知っているじゃねえか。だが、太子なんて呼ばれるとこそばゆいから、普通に
蓮の花や葉の形の衣服を身に着け、
「危ない男子なんかじゃないからな。わかったか?」
「わかったわよ。でも、現代にその
「確かに。何百年かしれねえが、眠っていた間に世の中すっかり変っちまってる。俺もわからないことだらけだから、慣れるまで、ここの
「承知いたしました」
(えっ。おじい様それはないんじゃぁ)
「あんた。普通の人には見えないんでしょ。それにその格好も何とかしないと」
「ああ。これでどうだ?」
もはや文句のつけようがない。普通の高校生男子である。
そして、あれよあれよという間に、
◆
翌朝から
普光院は真言宗の寺らしく、
一方、
覚元が裏から手を回して、強引にねじ込んだらしい。
だが、女子からは人気があった。
それに、女子に対しては親切で、決して暴力を振るうことはなかった。
◆
そんなある日、
覚元は言った。
「東町に奥深い鎮守の森があるだろう。その近辺で行方不明者や怪我人がでておってな。警察も捜査をしているのだが、目撃者の話だと、どうもこれが
「えーっ! 何で私が?」
「わしは、この間の妖怪退治で腰を痛めてしまってのう。まともに動けぬのじゃ」と言うと、これ見よがしに腰を
「怪我が治ってから、おじい様が行けばいいじゃない!」
「なにを言っておる。その間に被害者が増えたらどうする」
「それは、そうだけれど……」
「すみませぬが
「おう。わかった。任せとけ」
「そうよ。私じゃなくて
「それじゃあ、修行にならねえだろう」
「何よ! あんたまで」
そして、その日の晩。
◆
今日は
ふと嫌な予感がして
「きゃっ」と驚きの悲鳴をあげる
その後も
勘の良さを頼りに、それを何とかぎりぎり
(そうか! 視覚に頼らなくても霊感で感じればいいんだ)
化け物は、
いちおう女のようだ。
姿が見えたことで、攻撃は
(ここは奴の動きを止めなくちゃ)
ここは急ぐので簡易の方法で行くか。
「
すると
(よしっ! 今だ!)
炎帝の
「呪符退魔、
激しい炎が、蜘蛛の化け物を襲う。恐ろしげな悲鳴をあげながら苦しさにもがいている。
(お願い。このまま息絶えて……)
だが、
突然の出来事に、
「きゃーっ!」と、悲鳴が口をついた。
その時……。
「
それまで高みの見物を決め込んでいた
彼が持つ
しばらくして、
「もう。もっと早く助けなさいよね!」と苦情を言うと、
その顔は涙ぐんで、ぐちゃぐちゃになっていた。
◆
翌朝。
だが、
「たかが
「…………」
そして、いつまでこんなことが続くのかと途方に暮れるのであった。
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