第4話:おいしい話には裏があります
幸福になることが神薙の仕事だと言われても、なんだかピンとこなかった。
なぜわたしの幸福が「繁栄の象徴」になるのだろう。
ただわたしが「ハッピー」と言っているだけでは繁栄なんてしないだろうに。
それに、お仕事と呼ぶには随分とラクだ。
怪しいですね……。
こういうおいしい話って、必ず裏があると聞きますが?
わたしはジトっと二人を交互に見た。
疑われていることに気づいたのか、そこからイケオジ陛下と宰相によるプレゼン大会のようなものが始まり、徐々に二人の言う「幸福」の定義が明らかになっていった。
この大陸には、「天人族」と「ヒト族」と呼ばれる二種類の種族が暮らしているらしい。
同じ部屋にいる陛下、宰相、くまんつ団長と騎士の皆さん、一体誰が何族なのか、外見ではまったく見分けがつかない。
ただ、わたし以外の全員が「天人族」だった。
わたしはどちらでもない「神薙様」だそうだ。あえてナントカ族という表現に統一するなら、「地球人族」あたりになるだろう。
天人族とヒト族の最も大きな違いは、天人族には「魔力」があることだった。
ヒト族よりも高度な仕事ができるため、彼らは国の支配層に集中していて皆さん裕福なのだとか。
「魔力」という単語は衝撃的なのだけれども、それについて詳しく聞いていると話がややこしくなるので、今はスルーしておくことにした。
陛下は「天人族の中から愛し合える相手を見つけて欲しい」と言った。
長く暮らしていれば好きな人もできるだろうし、それだけでいいのなら大丈夫かな、と思った。
ところが、陛下の話は予想もしなかったほうへと転がっていく。
「夫や恋人は一人である必要はない」
わたしは思わず「はっ?」と言った。
「ん? 好きなだけ男を選んで良いぞ?」
「えっ?」
ええと……
このイケオジは何を言っているのかな……??
「この国は一夫一妻制だが、神薙に限っては夫の数に上限がない」
は…ぐぅ……ッ!
思わずのけぞった。
予想もしてなかった場所から、突然ミサイルを大量にバコバコ撃ち込まれたような気分だった。逃げなくちゃと思う前に、もう被弾していた(やめて 泣)
わたしは無意識にソファーで身をよじっていた。
陛下の言葉の意味は分かる。
けれども、その価値観が分からない。
頭がついていけなくて、ぷるぷる震えながら視線を逸らした。
そこへ宰相が回り込むように、やんわり優しい口調で言った。
「夫は最低でも二人はお持ちください。我々の望みは神薙様の幸福。ただそれだけなのです」
ど、どなたか、陛下と宰相のお口にチャックをお願いします。
じゃないと、また泣きそうです……。
男性を選び放題で?
結婚し放題?
夫は最低でも二人?
それが、わたしの「幸福」ですと?
かかか価値観がぶっ飛んでやしませんか?
自分達が良くても、わたしに都合が良くないことだってあるのですよ。
しかも、それ、倫理的にダメなやつじゃないですかーっ(泣)
ムリです。
このお姫様コスプレのような格好で、二人の旦那さんと暮らす様を想像しただけで、もう殆どコントだもの。
旦那さんAと旦那さんB、毎日わたしはどっちの旦那さんと一緒に寝るのだろう。交互? お当番制?
旦那さんAは「月水金」担当、旦那さんBは「火木土」担当?
旦那さんて、ゴミの日か何かなの……?
日曜日はどうするのだろう。三人で寝る?
「これが本当の川の字だね、ダーリン」って、言っている場合かっ!!
「も、申し訳ありません。わたしには、とても無理です。どうにか、元の世界に帰して頂けませんか……っ」
なんだか分からないけど体の震えが止まらない。手の平に変な汗が滲み、上半身だけがぷるぷる震えて仕方がない。
そんなわたしに向かって、宰相は眉を下げながら言った。
「夫が住む宮殿は追加もできます。百人でも二百人でも大丈夫ですので! なんとか! なんとか、お願いいたします、神薙様!」
わたしは目を閉じて天井を仰いだ。
宰相さん……、そうじゃないです。
物凄ぉく勘違いしています。
わたし「二人じゃ足りない」という意味で「無理」と言ったわけではないです……。
「リア殿、頼む。このとおりだ」
「陛下、どっ、どうして旦那さんが必要なのですか。それも二人も。わたし、そういうのはできません。本当に、本当に、無理ですから。勘弁してくださいっ」
食い下がる宰相と陛下が「頼む頼む」とペコペコ、こっちは「無理です無理です」とペコペコ。
「幸福と結婚は必ずしも同じことではありませんからっ」
わたしは必死でイヤイヤをした。
「いや待ってくれ、リア殿。我々がきちんと話さなかったのが良くなかった。この話には続きがある」
陛下は居住まいを直し、落ち着いた口調で言った。
「そもそも我々天人族は、男しか生まれない種族なのだ」
………ん?
男性だけ??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。