祖母の独り言
笹井滿子は、優しさと淡さを混ぜ合わせた眼差しで笹井家の墓石を眺める。
背を伸ばし、黒く染めた髪を後ろで結ぶ。
「平八……正蔵さん施設に入ったそうだよ。相手さんも元々示談で解決してたからさ、こっちはこれまでの賠償金を返金させてもらった。だからって、時間は取り戻せない……けど場所さえ変えればやり直せるもんだ」
墓石を洗い、タオルで拭く。
生えた草を取り除いていく。
「奏多は元気にやってるよ、無理しない程度に畑いじりもやってさ、本当おじいちゃん子だ」
花を添える。
「娘は相変わらずだ、婿が献身的に支えてくれてる。孫もみんな元気いっぱい……ひゅうちゃんは、ひとりぼっちだよ。まぁでもはじめ君と奏多が傍についてるから、なんとか生きてる。大人の身勝手で……取り返しのつかないことをしてしまった」
線香をあげる。
「もういつどうなってもおかしくない年だからね……私も正蔵さんも平八のところには逝けないけど、それだけは許してよ……せめてあの世ぐらい、あの人と一緒に苦しむさ」
滿子は手を合わせ、凛々しさのある顔つきで1人、呟いた――。
完結
明日の日向を探す(改訂) 空き缶文学 @OBkan
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