確保

 息切れを起こす。

 老体に鞭を打ち付けて川を越えていく。

 その先は3車線。

 行き交う自動車の流れが聞こえてくる。


「平八……すまん、すまん、許してくれ……おれぁ、怖いんだよ」


 謝罪と恐怖を繰り返す。


「あの世でお前に、永遠に詫びるからよぉ。ひゅうちゃん、ひゅうちゃん……だけは許してやってくれぇ」


 滲む涙腺。

 脚がもつれる。

 川の流れに押されて転んでしまう。

 もがく。

 視界が歪み、手は狂ったように川の底を探る。

 激しい水しぶきが幾度と跳ねた。

 一瞬の出来事で、水面から引き上げられ深い呼吸を繰り返す。

 鼻や口からと川の水が抜けていく。


「ジジイ……てめぇ、簡単にあの世にいけると思うんじゃねぇよ」


 恨みを込めた眼差しで正蔵の後ろ襟を掴み浮かせるのは、タケルだった。


「はぁ……はー……お前は」

「荒川、忘れてねぇよな? 鍬でボコボコにしやがって、アンタのせいで俺の父親が加害者になった。いくら示談で終わろうが……地獄には変わらねぇ」

「オレを、殺すんか?」


 憂いに満ちた眼差しに、タケルは舌打ち。


「殺してやりてぇよ、今すぐ川にジジイの顔突っ込んで溺れさせてやりてぇ」

「殺してくれ……殺してくれ、すまん、すまん……平八、滿子、晴吉…………ひゅうちゃん、すまんすまん、すまん」


 震えた喉で何度も謝罪を呟いた――。

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