吐き出す

 ひゅうちゃんは目を覚ました。

 汗を拭い、服を着替える。

 いつものように洗面台で支度を済ます。

 居間に行くと祖父の姿がない。


「…………」


 玄関に靴もない。

 スニーカーを履いて、砂利とレールが擦れる音を響かせる。


「あ」

「……」


 扉を開けようとしていたハジメと、かなたがいた。

 ほっとしたハジメ。

 複雑に笑みを浮かべたかなたはひゅうちゃんに抱き着く。


「良かった! ひゅうちゃん無事だったんだ」

「ど、どうしたの?」

「その、正蔵さんが、いなくて。滿子みつこばあちゃんが墓参りに行った時に会ったんだけど……話の途中でどこかに行っちゃったって」


 後ろに2歩、下がるひゅうちゃんは首に手を添える。

 呼吸を整える。


「おじいちゃんが……は、は、ぁ」

「ねぇひゅうちゃん、お願い、知ってること教えて。おじちゃんと、何があったの? 私のおじいちゃんが何か、したの?」

「……してないよ」

「ひゅうちゃんを助けたいんだ。吐き出せることは吐き出して、俺達、受け止めるから」


 優しい声が責問に聞こえるひゅうちゃん。

 耳を塞いでしまう。

 曇る瞳は2人を映さなくなる。


「わた、し……良い子、だって、おじいちゃんも、周りの大人も、言ってくれるの……私なんかが……」


 震える喉から吐き出す弱々しい呟き。

 呪いのような言葉に締め付けられているひゅうちゃんを優しく見下ろすハジメ。


「大人はさ! 都合よく使う為に良い子って言うんだよ!」

「ハジメくん……」

「苦しいなら今すぐ吐き出せ! どんな結末になっても、俺、責任取るから!!」


 ひゅうちゃんはしゃがみ込んだ。

 冷や汗が止まらない。


「ひゅうちゃん!」


 背中に手を回して寄り添うかなた。

 ボロボロと涙が零れていく。

 喉が痙攣を起こす。

 

「わ、わた、し、わ、私……おじいちゃんが、平八さんを……――」

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