変化の兆し

 洗濯物を畳む祖母。

 かなたも手伝い、弟達の洗濯物を畳む。


「いつも手伝ってくれてありがとう奏多。将来いい奥さんになれるわ、はじめ君がもう少し近くを見りゃいいんだけど」

「変なこと言わないでおばあちゃん、ハジメくんは幼馴染なだけだから」

「2人で花火大会に行ったのに?」

「ホントは3人で行く予定だったの。ひゅうちゃん、人酔いするから」

「あの子が? 奏多の方でしょ人酔いするのは、無理して明るく振る舞う必要なんてないんだ」


 優しさと淡さを交えた口調。

 指先がシャツの皺を強めた。


「……そんなことない。おばあちゃんは、強いね」

「この歳にでもなりゃ何もかも大したことじゃなくなるよ。ホント、死んでもおじいちゃんは人気者で困ったもんだ」


 達観した笑みを浮かべる祖母。

 すぅ、と息を吸うかなたは切り出した。


「おじいちゃんとおばあちゃん、それと正蔵おじちゃんって幼馴染だったんだよね?」

「あぁそうだよ」

「正蔵おじちゃんが若い時ってどんな感じだったの?」


 正蔵、彼の名前に祖母は曖昧に微笑んだ。


「正蔵さんのことかい、今も変わらない明るい、不器用な人。おじいちゃんの大親友さ、私よりも長い時間過ごしてたよ、あの2人は」

「不器用?」

「あぁ、いつも思っていることを言わないし、人付き合いも下手でニコニコとみんなの都合に合わせてばっかり」


 遠くを懐かしく見つめる祖母に、かなたは自身の背中に緊張を与える。


「見合いっていう習慣を憎んだよ。今は恋愛結婚なんて普通だろうし、奏多もちゃんと好きな相手ができたらどんな結果になろうと伝えなさい。それが貴女を優しく逞しくしてくれるからね、何もしなかった後悔ほど自分を醜くするものはないんだ」

「う、うん」


 いつもの真っ直ぐ、凛とした眼差しに戻った祖母。


「年寄りの説教みたくなったけど、奏多、私に訊きたいことはそれだけかい?」

「えっ、えーと」

「無いなら、別にいいんだよ」


 畳み終えた洗濯物を抱え、立ち上がる。

 かなたはもう一度息を強く吸う。


「最近、ううん……おじいちゃんが事故で亡くなってから、閉じこもっちゃったひゅうちゃんが心配で、最近はもっと、もっと苦しそうにしてる。大切な幼馴染が苦しんでる、だから助けたくて、それでもしかすると正蔵おじちゃんと何かあったのかなって」


 やや早口になってしまう。

 俯く孫に、祖母は肩をすくめ、静かに見下ろす――。

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