提案の巻き添え

「へ」


 ハジメはスマホを見るなり、間抜けな声を漏らす。

 帰り道、満腹を撫でるハジメ。

 ひゅうちゃんは特に気にせず玄関を開けようとしている。


「ひゅうちゃん!」

「……なに?」


 汗ばんだ肌に張り付くロブヘアの毛先。

 憂いに満ちた瞳を向ける。


「家族みんな明日の夕方に帰ってくるんだって」

「そう……なんだ」

「晩ごはんをー」

「……かなたちゃんの方が料理上手だよ」


 ぶんぶん首を振るハジメに、ひゅうちゃんは目を伏せてしまう。


「かなたちゃんのはよく貰うから食べてるけど、そうじゃなくてさぁ、ひゅうちゃんの手料理が」

「あ」


 ハジメの後ろ、少し離れた場所から自転車を押し歩くタケルが見えた。

 車輪は空気が抜けているのか、地面にだらんと密着している。


「……タケル先輩」

「ホントだ」


 相変わらずの血がついたシャツと、雑に巻かれた包帯と貼り付けられたガーゼ。


「んだよお前ら」


 羨望と猜疑心がやや抜けた睨み。


「パンクなら俺直せますよ」

「はぁ? お前何でも屋かよ」

「そんな感じっす。で、ホントに先輩は家帰らないんですか?」

「うるせぇな、お前も同じこと訊くな」


 ひゅうちゃんとハジメはお互い目を合わせる。


「あんまりうろつくと危ないですし、今家族みんな旅行中なんで、泊まってきます? 今ならひゅうちゃんが手料理もご馳走してくれるっすよ」

「えっ」


 勝手に決められてしまい、ひゅうちゃんは思わず気の抜けた声を漏らす。

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