そうめん

 ゴミ袋に詰め込んだ雑草や小枝。

 日陰で涼み、休憩する3人。


「あっつぅーマジでなんで大人はやんないの?」


 ハジメは暑さに口調が溶けている。


「大人は仕事があるから。夏休みなんて学生ぐらいだよー」


 スポーツドリンクを飲むかなたは、揺らぐ神社の鳥居と石段を眺めた。


「……」


 首に手を添え、何も言わないひゅうちゃん。


「おばあちゃんがそうめん作ってくれてるから、ゴミ捨て場に運んだら行こう。ね、ひゅうちゃん」

「…………うん」


 静かに頷いた。

 ゴミ袋を両手に持つ。

 かなたとひゅうちゃんはゴミ袋と草刈り道具。

 ハジメはゴミ袋を右手、左手に2袋ずつ持つ。

 川沿いに目をやると、自転車とタケルの姿がなくなっていた。


「家にも帰らずに何やってんだろうね、あの先輩」

「え、帰ってないの、タケル先輩」

「うーんなんか、ぽいこと言ってた。よく分かんない」

「家族とうまくいってないのかも」


 ハジメとかなたのやり取りを後ろで静かに聞く。

 ゴミ捨て場に置いてから、笹井家へ。


「おじゃましまーす」

「ただいまぁ、草刈り終わったよおばあちゃん」

「……お邪魔します」


 迎えてくれたのはかなたの祖母。

 真っ直ぐに伸ばした背、染めた黒髪を後ろに結んでいる。

 落ち着いた眼差しで3人を見つめる。


「おかえり奏多、はじめ君とひゅうちゃんもありがとうね、外は暑かったでしょ。そうめん茹でておいたから、食べていってちょうだい」


 リビングに用意されたそうめんと、夏野菜、梅干し、蒸した鶏肉。

 手作りのつゆと、わさび、しょうが、ねぎ。


「うまそー! これ全部食っていいんすか?!」

「いいよ、けどその前にちゃんと手洗いなさいね」


 先に手洗いを済ましたかなたとひゅうちゃん。


「あら、ひゅうちゃんその首、どうしたんだい? 青くなってるじゃないの……まさかおじいちゃんに何かされたの?」


 ひゅうちゃんは首を振る。


「い、いえ、ちょっと」

「昨日の夜変な先輩に絡まれたんだよ。ほら、この前ハジメ君とひゅうちゃんに怪我をさせた人」

「ああ……あの子、そう、てっきり」


 ボソボソと濁すように目を逸らした。

 疑問を喉に押し込み、ひゅうちゃんは「大丈夫です」と小さく零した。


「ひゅうちゃん、無理してでも食べるんだよ。栄養つけなきゃ怪我も治りにくいからね」

「……はい、ありがとうございます」

「手洗ったー!」


 手洗いを終えたハジメは勢いよくひゅうちゃんの隣に座り込む。

 肩が触れる距離にひゅうちゃんは微かに眉を動かす。

 それを見たかなたはハジメを軽く睨んだ。


「どした?」

「なんでもないけど……距離近くない? 肩、ぶつかってる」

「…………痛い」

「あ、ごめん! つい」


 慌てて横に離れたハジメ。

 呼吸を整える為、ひゅうちゃんはそっと首に手を添えた――。

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