ハジメとタケル

 駆け足で神社に向かうハジメ。

 道中、最近見かけた自転車と、川辺で両足を突っ込んでいるタケルを発見。

 むっ、と口が曲がってしまう。

 嫌悪感が少しの冷静さに譲り、近づいていく。


「タケル先輩」

「あぁ? 今度は橘か」


 不機嫌そうに振り返る。

 雑に巻かれた包帯と顔に貼られたガーゼ。

 シャツは乾いた血で汚れている。


「昨日のことなんすけど……ひゅうちゃんの首を絞めたことは一旦置いときます。何があったんですか?」


 隣にあぐらをかいて座りこんだ。

 話を聞く体勢になっているハジメに、タケルは口角を下げる。


「マジでなんだよお前ら」

「お願いっす、俺、ひゅうちゃんをなんとか助けたいんです」


 鼻で笑ってしまう。


「楽にしてやるのが救済って聞くけどな」

「タケル先輩!」

「うっせぇーなぁ……絞め殺そうしたら後ろからジジイにクワで殴られた」

「それは状況見てるから分かってますって」

「……はぁーあのジジイが平八の交通事故に関わってる、と睨んでるだけだ」

「正蔵さんが」


 豹変した正蔵が記憶に残っている。


「お前と笹井は関わんな。海原日向のこともほっとけ」

「そんなの、今更無理です。俺はひゅうちゃんの役に立ちたいんすから」


 大きな溜息を吐き出したタケル。

 自らの手を眺めた後、何度か空を掴む仕草をする。


「…………地獄だな」


 川に向かって弱々しく呟いた――。

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