手当て

 田舎町。田畑と民家ばかりの道路が揺らぐ。

 神社の傍に流れる膝まで浸かれるほどの川辺で腰掛けるタケル。

 自転車を真横に、乾いた血で汚れた顔とシャツという姿。

 ガッチリと筋肉がついた両脚を川に、どこかを睨みつけている。


「……」


 手で空を何度か握り締める仕草。

 通りがかった土を踏む靴音に興味を示さず、ジッと川を眺める――。




「あれ、あの人」


 草刈り用の道具一式を抱えたひゅうちゃんとかなたは、川辺に座っているタケルに気付く。

 ひゅうちゃんは首に手を添えた。


「絡まれる前にさっさと行こう」

「待って……怪我してる」

「え、でも、危ないよ」

「大丈夫、多分……救急箱って神社にあった?」

「う、うん、常備してあるけど」

「じゃあかなたちゃん、お願い……私引き止める」


 ひゅうちゃんは臆せずタケルに近寄った。


「あぁ?」

「……」


 気配に気づいたタケルと目が合う。


「なんだよ……笑いに来たのか? あぁ?」


 首を振って否定。

 細い首筋に薄っすらと残った青い痕に、タケルはそっぽを向く。


「昨日はどうかしてた、頭の血抜けたらアホらしくなった。だからもうやらねぇ」

「あの、怪我が……」

「うるせぇな、いちいちそんなことで近づいてくるんじゃねぇ!」


 ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「はいこれ消毒、です!」


 代わりにと頭上から消毒液をぶっかけられた。


「ぺっぁえ! なにすんだ!!」


 救急箱を片手に戻ってきたかなたは、威嚇する眼差しで見下ろす。

 ガーゼと包帯で雑に巻き付ける。

 ひゅうちゃんとかなたは、とりあえず、と応急処置。


「余計なお世話だっての」

「家……戻らないんですか?」

「昨日言っただろが、俺にはやらなきゃいけないことがある」

「……もうひゅうちゃん、はやく草刈しにいこ」


 不満を露わに神社に向かうなか、


「ありがとうも言わないなんて。私のおじいちゃんのこと馬鹿にして、大切な友達2人のことも傷つけて、許したくない。ひゅうちゃんも変に構っちゃだめだよ」

「…………うん」


 首に手を添え、呼吸を整えた――。

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