早朝のこと
『父が認知症なわけないでしょう!』
『もちろんそうだよ……ただ、お義父さんは最近思い悩んでいたみたいで、もしかしてそれで……』
『もうやめなさい、何を言ってもあの人は帰ってこない。運転手は誠実に罪と向き合ってくれている、それでいいじゃないの』
『お母さんはなんで平然といられるの!?』
『じゃあアンタはどうして子供がいるのに平然と声を荒げて言い合えるんだい? 調査に納得できないなら家じゃなくて警察に訴えなさい』
ランドセルを玄関に置いて、かなたは外に出た。
必死に、必死に、取り繕うように指先で口角を動かす。
零れる涙も引っ込ませて、身近な明るさを元に創り出して行く。
『ひゅうちゃん……』
すれ違って暗闇に籠る幼馴染。
喉を震わし、まともに目が合わず、極端に減った口数。
『強くならなきゃ……わたし、わたし、じゃなきゃ……』
目を覚ました。
ベッドから勢いよく体を起こし、重力に従い零れていく涙を拭う。
午前6時、かなたは髪をポニーテールに結んだ。
動きやすい服装とアームカバー、帽子、作業グローブをつけて家の誰よりも外に出た。
猫背気味の正蔵が畑を眺めて立っている。
「おはようございます、おじちゃん」
「おぉ、おはよう奏多ちゃん。毎日早起きで偉いねぇ。昨日は心配させてごめんよ、ひゅうちゃん帰ってきたからね」
胸を撫で下ろす。
「良かった……あの、ひゅうちゃんはどこに行ってたんですか?」
「あぁガラクタ置き場だよ、不良少年に絡まれてえらい目にあったみたいでなぁ」
「え、またあの先輩? ひゅうちゃんは大丈夫なんですか?」
不安に駆られ胸元に手を寄せる。
「うんうん心配してくれてありがとう、奏多ちゃんも良い子だよ。大丈夫、はじめ君が介抱してくれてなぁ」
「そ、そうですか、ハジメくん……」
「けど、夜中に子供が何人も出歩いちゃいかんよ。余計なことする悪い子になっちまう、奏多ちゃんはそうならないようにね」
皺の笑みを浮かべ、正蔵は散歩に出かけて行った――。
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