行方

 午後9時。


「…………」


 ニコニコとした表情が無に変わる。

 空っぽの寝室。

 玄関にない孫の靴。 

 暗闇の外に出ても、姿がない。


「あ、正蔵さん」


 花火大会から帰ってきたかなたとハジメに、皺の笑みを浮かべた。


「おぉ2人とも、今年もええ花火だったろい。ひゅうちゃんはどうしたんだい?」

「え? ひゅうちゃん行かないって、それでお土産を持ってきたんです。どこかに行っちゃったんですか?!」


 かなたとハジメは焦りで目を大きくさせる。


「親に小遣い貰って出かけたから、てっきり……そうかそうか」


 頷いた後、


「俺が周り探してみるや、心配せんでも散歩してんだよ、お前達は家で涼んでな」

「おじちゃん……でも」

「外出歩くのは悪い子だ。ひゅうちゃんは俺の大事な大事な孫、だから、俺が、探すよ、なぁ?」


 ニコニコと圧をかけるように言葉を強調する。

 かなたとハジメは少し怯み、ぎこちなく頷く。


「じゃあ探してくるなぁ」


 倉庫から取り出した懐中電灯と、鍬を掴み、正蔵は無のまま進みだす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る