苦しい雨

 土を湿らし始めた雨粒。

 一瞬にして強く叩く斜めに降り注ぐ雨量。

 畑作業を中断した屋根の下、途中まで収穫したトマトを縁側に置く。

 

「雨降ってきちゃったね」 

「……うん」

「今日はもう解散しよっか。手伝ってくれてありがとう、ひゅうちゃん」


 酸素が少し通りやすくなる。

 頷いたひゅうちゃんは、足先を家へ向けた。


「ひゅうちゃん」


 背中へ呼びかけられ、片足だけつま先がつく。


「ちゃんと、いつか話してくれる?」

「…………かなたちゃん」


 控えめに振り返る。


「大丈夫だよ……ありがとう」


 大きな雨粒に触れても気にせず、家へ駆け戻った。

 砂利とレールが擦れる音を立てて、扉が開く。

 俯いた視線の先に怯んだ。

 大きなサンダルと濡れたシャツと短パンのまま玄関に腰掛けているハジメが、いた。

 コンビニのレジ袋を指にかけている。


「あ、ひゅうちゃん、ごめん。シャワー借りてもいい?」

「……隣なのに?」

「まーなんていうか、家は居づらいから、ダメかな?」

「…………」





 シャツと短パン、トランクスをハンガーにかけた。

 扇風機とエアコンの除湿を効かせて、居間に干す。

 ロブヘアの毛先が張り付く横顔は憂いを帯びている。


「シャワーありがとうひゅうちゃん、マジで助かったー」

「…………」


 バスタオルで髪を拭きながら戻ってきたハジメは、一目で新品と分かるトランクスとシャツを着ている。


「コンビニで、買ったの?」

「え、うん、コンビニに行く途中で降ってきたから」

「…………そう、なんだ」


 微かな疑問を喉の下へ。


「乾いたら、家に持ってくよ?」

「えーと、乾くまで待ってる。ひゅうちゃんはこのあと予定ある?」

「……」


 事実、予定がない。

 ひゅうちゃんは濁すこともできず、首を振る。

 大きな温かい手に包まれる。


「嫌だったら、引っ叩いて」


 優しい声が耳に触れた。


「…………」


 ごつごつとした指先が頬にくっつく毛先をどかす。

 俯くひゅうちゃんを掬うように、キスをする。

 膝をついて、何度も軽いキスを続けた。

 バスタオルを敷き、あぐらをかいたハジメに引き寄せられ、上に跨り、少しだけ目線が高くなった。

 膨張して硬くなったものが下腹部に当たっている。

 黒シャツを捲り、膨らみに口づけをする――。





 

 ――後から込み上げてくる苦しさが呼吸をさらに辛くさせた。

 疲れて横になっているハジメを、潤んだ瞳に映す。

 喉に手を添え、俯く。


「…………」


 重く圧し掛かる。

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