呪いの言葉

 喉が苦しい、か細い指先を添えた。

 重くぶつかる音と人影が林へ飛んでいく映像。

 一瞬のことだった――。




 目を覚ました午前6時30分。

 冷房が効いた寝室で、汗をかく。

 布団から起き上がったひゅうちゃんは、下腹部に残る異物感に気持ち悪さを覚えた。

 立てば微かな痛みが伝わる。

 服を着替え、扉を開けると、デイサービス用の鞄を持った祖父が廊下を歩いていた。

 猫背気味で、皺くちゃな顔に笑みを浮かべている。


「おぉ、おはようひゅうちゃん」

「……おはよう、おじいちゃん」


 俯いて目を逸らす。


「怪我はもう大丈夫か? 女の子殴るなんてなぁ、男の風上にも置けん奴だよ」

「……大丈夫」

「ほうかほうか、やんちゃも過ぎれば事件だからね」


 静かに頷いて応える。


「うんうん、ひゅうちゃんはいい子だ。とってもいい子、こんなジジイを大切にしてくれる良い子」


 呼吸が苦しくなり、喉に手を押さえてしまう。

 汗が皮膚をつたう。

 祖父の微笑みが歪んで映る。


「…………」


 否定も肯定もできずに俯いたまま。


「しかしずっと待っとるのに迎えに来んなぁ、もうちょっと居間でテレビでも見るかぁ」


 デイサービス用の鞄を手に、居間へ姿を消した祖父。

 静かな廊下、壁に凭れ、ずる、ずる、と崩れ落ちていく――。

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