ケンカ

 タケルの背後から飛びかかった。

 短髪に垂れ目のハジメが、表情を引き攣らせて羽交い絞めにする。


「あぁ?!」


 負け時と腕力で振り払い、取っ組み合いの喧嘩に発展。

 顔面へ容赦なく殴り掛かるタケルの拳に堪えながら、払い腰で地面へ投げつける。

 馬乗りになって反撃に移るハジメ。

 2人とも唇を切り、鼻血を出し、頬や額の皮膚からも血を流す。


「トラック、交通事故の……」


 振り絞って小さく発したひゅうちゃん。

 喉を震わせた言葉に、タケルは瞳孔を大きくさせて動きを止めた。

 有り余る力でハジメを押し退かせた後、四つん這いで動物のように駆け寄り、ひゅうちゃんの襟を乱暴に掴んだ。


「教えろ、教えろよっ、親父を地獄に突き落とした奴を!!」

「…………」


 何も言わない。


「タケル先輩もしかして、運転手の……」


 悲しみの眼差しに変わっていく。


「うるせぇ!! 見るんじゃねぇ、見るな、見るな、そんな目で見るな見るな!!!!」


 怯えた表情でタケルは叫んだ後、ひゅうちゃんを突き放し、ガラクタ置き場から姿を消した。


「ひゅうちゃん!」


 駆け寄るハジメ。

 砂利や土で汚れ、唇から血を滲ませるひゅうちゃん。

 

「ごめん、一緒に行けばよかったね。怪我しちゃって、アイツ最悪だよ……なんでひゅうちゃんに」


 優しく肩に触れる。

 ボロボロ、零れる涙が止まらなくなる。


「大丈夫……ごめんなさい、ハジメ君血だらけに……」

「あんなの大したことないよ。ほら、涙拭かないと」


 顔を血まみれにして微笑んだあと、ポケットからハンカチを取り出した……。

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