暴力

「お前……」


 大きな手に口を塞がれ、背中をガラクタの山に押し込まれたひゅうちゃん。

 声が出せない状況、鬼の表情で詰め寄るように睨まれている。


「被害者ぶってるアイツが気に入らねぇ、けどもっともっと気に入らないのはお前だ!」

「っ?!」


 強制的に顎が上を向き、さらに強く押し込まれてしまう。

 ひゅうちゃんは痛みで顔を歪めた。


「無関係のくせに被害者面してよ、お前はなんだ? 関係あんのか? あのジジイの事故とよぉ!」

「い……たぃ」

「早く話せよ!!」


 頬に熱が走った。

 暗転したように視界が揺れ、ひゅうちゃんは砂利に倒れ込んでしまう。

 腹部に重い痛みが入り、瞼を強く閉ざす。


「あっ、ぅ」


 メリメリとへこませるようにタケルの足が腹部を踏む。

 眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、痛みに耐えた。

 軽く揺するように蹴って離す。


「う……げほッ、げほ……」


 少しむせ込んでしまう。


「平八ってジジイがボケてたせいで滅茶苦茶なんだよ。クソ、クソ……ボケたらさっさと薬で死なせときゃいいのに」


 唾を吐いて背中を向ける。

 上体を起こし、瞼をぎゅっと閉ざして足先に力を入れた。


「平八さんは……ボケてませんでした……」

「あぁ?」


 土で汚れた服。

 腹を押さえて立ち上がった。

 振り返った少年に、


「ボケてない!」


 強く答えた。


「平八さんは、優しくて困ってる人を見捨てない、皆から慕われてた素敵な人です!」


 睨み返す。


「あぁそう、じゃあなんでまともな奴が夜中に歩道もない道路に飛び出すんだ?!」

「それは…………」


 言い淀む。

 顔色を曇らせて、頭に浮かび上がるのは悪夢の映像。ぐるぐる回っている。

 ガラクタ置き場で分解された単車。


「テメェも共犯者か!?」

「あ……あ、あの」


 再び詰め寄られ俯いてしまう。

 ジリ、ジリ、と足音が聞こえてきた……――。

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