かなたの祖父

 夢にいる。

 ランドセルを揺らして田舎町の道を駆け出すポニーテールの少女、かなたが映る。

 かなたを追いかけると、畑にたどり着く。


『おじいちゃん!』

『おぉ奏多かなた、お帰り』


 重みがある低めの声が響いた。

 かなたの目線に合わせて屈み、髪を撫でている。


『ひゅうちゃんもお帰り、正蔵とお父さんもまだ仕事だろう? こっちにおいで』


 手招かれて近づくと、大きな手が髪を優しく撫でた。


『2人とも遅くまで仕事してて、なかなか会えないから寂しいな』


 ぽた、ぽた、と雫が落ちていくのが見えた。

 濃縮した赤が土を濡らす。

 見上げると、顔面を覆うほどのおびただしい血。

 その奥で瞳孔が開いていた……――。



 ひゅうちゃんは目を覚ました。

 短髪で少し垂れ目のハジメが心配そうに覗き込んでいる。


「え、また……?」


 前髪がべたつくほど汗ばむ額を、指先で拭う。


「ひゅうちゃん大丈夫? かなりうなされてたよ。また変な夢でも見たの?」

「……大丈夫、えーと」

「うん? 前の宿題の続き、3人でまたしようってスマホで送ったじゃん。またなかなか来ないから起こしにきた」

「あ……うん、そうだっけ」


 震える指先を押さえ、ひゅうちゃんは呼吸を整えた。

 微かな塩素のニオイに眉を下げてしまう。


「ハジメ君……あの」

「ほらほら早く支度してこい」


 会話は強制的に終わり、大きな足音を立てて出て行った――。

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