アルバムの中
今日も夢を見た。
物を引き摺るような音がしっかりと聴こえてくる。
呼吸を乱し、ゆっくり、確実にどこかへ向かう。
遠くから隠れて覗くことしかできない。
太い車輪がぐるぐる回る。
ただただ感情を……抑え込んだ。
ひゅうちゃんは目を覚ました。
ゆっくり起き上がり、服を着替えて洗面台へ。
うがいをして、朝食を摂って、歯磨きをする。
ごそごそと物音が倉庫から聞こえてきた。
玄関に置きっぱなしのデイサービス用の鞄。
勝手口から倉庫の様子を見に行くと、猫背気味の祖父が箱を動かしていた。
「おはよう、おじいちゃん、なに……してるの?」
「おう、ひゅうちゃん、倉庫の片付けをしてるんだよ。埃かぶってるし、いらないもん捨てないとなぁ」
「でも、今日デイに行く日だよ?」
同時に、田舎町に響くエンジン音と停止音、それから扉が開く音が届く。
『おはようございまーす!』
「おっ? すっかり忘れとった。ちょっと行ってくるなー」
祖父は少し慌てた様子でニコニコと笑いながら倉庫を立ち去る。
静かになった倉庫、置きっぱなしのダンボールを覗く。
「…………」
ダンボールは開いたまま、たくさんのアルバムが詰められていた。
1冊だけ背表紙が飛び出しているアルバムを取る。
アルバムをめくった瞬間、小さく息を切る短い悲鳴をあげて反射的に手から離した。
ぱらぱらと開くページの中にはモノクロから淡いカラー写真が敷き詰められている。
どこか控えめな笑顔で写る祖父。
隣には、黒い油性マジックで顔面を塗りつぶされた誰か……――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。