ひゅうちゃんと、タケル

 土曜日のこと。


「今日はデイ休みだっての! 次は月曜日だって書いてあんだろ!! 何回言ったら分かんだ!!」


 大きく荒れた声が家中に響く。


「おーそうだったか? 最近忘れっぽいからなぁーはいはい」


 ニコニコ笑い玄関から部屋に戻って行く猫背気味の祖父。

 ブツブツと溜め息深く居間に寝転ぶ父。

 ひゅうちゃんは俯きながら玄関へ。

 スニーカーにつま先をさし込み、かかと紐の内側に指先を入れて深くしっかり履く。

 レールと砂利の擦れる音が鳴る。

 外に出た瞬間、再び聞こえてきた荒れた声。 


「お前を見てるとムカつくって言ってんだよ!」

「急になに、や、やめて!」


 畑でかなたが絡まれている。

 詰め寄っているのは羨望か猜疑心に塗り固められた目つきをした少年だった。

 鬼のような表情を浮かべ、襟を掴んで揺らす。


「呑気な顔して畑いじりやがって、俺は、俺はなぁ、俺の家族は……お前のジジイのせいで」

「は、はぁ? おじいちゃんの話をしないで!!」


 かなたの表情が一変し、強い口調で少年に言い返す。

 喉は震え、叫びながらも裏返っている。


「あ……か、かなたちゃん、から、は、離れて!」


 か細い悲鳴に似た声をあげて駆け出した。

 2人に割り込んで、かなたを庇う。


「こいつっ、ジャマすんじゃねぇ!」


 ロブヘアの黒髪を乱暴に掴まれる。

 引っ張られて痛みに顔を歪めてしまう。


「いっ」

「やめて! もうあっちに行って! 大人の人呼ぶから!!」

「うっせぇ!!」


 軽い騒ぎに家から顔を出したのは、隣に住むハジメだった。


「おい、ちょっと何やってんすか先輩!」


 慌てて少年を突き飛ばしたハジメは、ひゅうちゃんとかなたを下がらせる。

 よろけた少年は軽い舌打ちをして、3人を睨んだ後、何も言わずに自転車に乗って去っていった。


「ひゅうちゃん、かなたちゃん平気? 怪我とかしてない?」

「うん、大丈夫。いきなり突っかかってきて、びっくりしただけだから、ありがとう」

「うん……びっくりした、かなたちゃん、何も悪くないのに」

「あの人、3年のタケル先輩。素行悪くていつも誰かに絡んでるんだ。よく分かんない人でさ、気を付けた方がいいよ」


 ひゅうちゃんはヒリヒリ痛む頭に触れ、俯いた。

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