悪夢の名残

 デイサービスの名前が書かれたハイエースが止まる。

 笑顔で迎えに来た職員と一緒に祖父は乗り込む。


「それじゃあ行ってくるなぁ」


 ニコニコと手を振る祖父に、ひゅうちゃんは控えめに手を振る。

 顔が少し俯く。

 出発したハイエースを見送ったあと、戸締りをしてから畑に向かった。


「おはようひゅうちゃん」

「……おはよう」

「おじちゃんの見送りしてたの?」

「うん……でも違う曜日も待ってる、かな。お父さんがそれでよく怒ってる」

「そっか、デイに行くのが楽しみなんだよ、きっと」

「……うん、そう思う」


 明るい微笑みに、遅れて笑みを返す。

 ホースの先を掴んで、畑に水をやる。

 かなたは残りの野菜を収穫し、カゴに入れている。

 不揃いな宝石の粒のように輝く水が舞う。

 粒の中で屈折した光が七色となって視界に映る。


「わ、綺麗な虹できてる」

「本当……きれい……」


 時折道路で跳ねる軽トラックが通った。

 荷台に積まれた配達用の単車。

 フロント部分が崩れてライトもハンドルもタイヤすら捻じ曲がっている。

 視界に映り込んだ瞬間、喉を締め付けられたような感覚に驚いて足を挫いた。


「ひゅうちゃん!?」


 畑に背中から転んで土だらけとなる。

 さらにホースが暴れ、服を濡らす。


「だ、大丈夫? ケガとかしてない?」


 駆け寄るかなたの心配した顔が見え、ひゅうちゃんは起き上がった。

 ロブヘアの黒髪も土と水で汚れている。


「うん……大丈夫、まだ寝ぼけてるのかも」

「もーひゅうちゃんってば、今日も暑いし、脱水になったら大変だから休憩しよっか」



 お互い、違う笑みを浮かべた――。

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