ひゅうちゃんと、かなた

 朝早く、セミの鳴き声と少し離れた場所から聞こえてくるタイヤの摩擦音にひゅうちゃんは表情を曇らせる。

 息を潜めるように歩く。

 家の近くには町のみんなが使っている畑があり、ナスがたくさん生っている小さな畑にポニーテールの少女がいた。

 帽子をかぶり、腕は焼けないようにアームカバー、タオルを肩にかけてつたう汗を拭う。

 靴音に気付くと立ち上がり、ひゅうちゃんに微笑んだ。


「おはよう、ひゅうちゃん」

「おはよう……」


 挨拶のあと、2人はナスをはさみで収穫する。

 花梗部分を切ってカゴに艶やかな色をしたナスを入れていく。


「……大きく育ったね」

「うん、ひゅうちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」

「そんなことない、かなたちゃんが愛情込めて育てたから……綺麗な色」

「おじいちゃんの教え通りにしただけ、あ、煮浸しとか野菜カレーにして今度分けるね」

「…………ありがとう」


 かなたの明るい微笑み。

 遅れて笑みを返す。


 田舎町の道路を自転車が通りがかった。

 木陰に自転車を止め、ジッと睨みつけている。

 シャツにジャージパンツ、羨望か猜疑心に塗り固められた目つきの少年。

 何も言わずただ、そこにいる……――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る