第2話

「宮城、背伸びたね」

春の間だけで、3センチほど身長が伸びた。成長期ってやつなんだろうと思う。膝が痛くなったりはしなかったから、見えている世界が少しだけ低くなったことなんて、俺にはよく分からないが。

「千早はもう伸びないの?」

ただ、合わせる目線が少し下がったことには気がついていた。

「うーん、どうだろう。1センチずつくらいは伸びてるんだけど」

「いつか見上げすぎて首が痛くなったりするかもね」

俺がそう言うと、千早はわざとらしくむくれてみせる。

「170ないくせに」

3センチ伸びたとは言っても、俺の身長は169センチ。あと少し届かない170という壁を、俺は少し気にしている。

「次の健康診断のときは越えてるから」

当たり前のようにそう言った。月日と共にだんだんと、当たり前に成長していく。体も、きっと心だってそうだ。

「どこまで伸びるか楽しみだね」

千早はそう言って笑う。俺も、自分の成長に少しだけ期待してみてもいいのかもしれない。


もうすぐ夏が来る。衣替えからも少し時間が経って、いくらワイシャツの袖を捲ってみても涼を得ることはできない。ぬるい風に吹かれながら、日が沈むのを待っている。

「夏休みのご予定は?」

もちろん、そんなものあるはずない。お盆にすら実家に帰らないような親戚付き合いのない家庭だし。

「なーんにもないよ。空白の夏休み」

我ながら、ちょっとオシャレな言葉選びだ。空っぽを装飾するのって、だいぶ虚しいような気もするけど。

「じゃあさ、夏休みもここ来たりする?」

まぁ、外に出る気力があれば。そう答えると、千早は嬉しそうに笑った。変な奴だな、と思いながらも、そんな反応をしてくれることに嬉しくなる自分がいて、照れくさくなってしまう。素っ気ない返事をそう捉えられていないことって、なんとなく理解してもらえているような気がして。


「じゃあ、また明日」

別れの挨拶をすること、手を振ること、振り返す千早を見送ることと、逆方面のホームに歩くこと。

そんな一連の動作に、早く慣れたいと思っている。もう少し先の電車の方が空いているとか、まだ外は明るいとか、もう少しだけ話す時間を作るための言い訳をしないで済むように。


いつの間にか俺の方が、この時間を必要とするようになっていた。学校であったなんでもない話を聞くのも、俺の物思いを聞いてもらうのも。あの公園であのベンチに座って、少しだけ現実を忘れるような時間が。

成り行きで始まってしまったから、きっとある日ふっと終わってしまうんだろうと思うだけで、俺の日常はとてもつまらなくなってしまうんだろうなと思う。だけど、少しでも長く続いて欲しいという気持ちよりも、千早がやめたい時にやめられる気軽さの方を優先しているから、引き止めたことは一度もない。それは気遣いなんかじゃなくて、俺の自信のなさなんだろうと思う。

きっとこの自信のなさは、今までも俺の人生に横たわり続けて、色んなことを諦めさせ続けてきた。

だけど、そのおかげでできもしないことをやろうとすることや、人より少しできるだけのことを才能だと勘違いしてしまうこともない。結果できたのは、短所ばかり知っていてこれといった長所を見つけられないでいる、弁えたみたいなツラをしたクソガキだ。絶望も達成感も、きっと味わえやしないんだろう。

せめて、もう少し自分に自信があったら。

「あったら…なんだって言うんだろう」

何をしたくて、何になりたいのか。俺はまだ分からないままだ。世界は狭いのに、そこですら俺にできることはないように思える。


いや、世界が狭いからこそなんだろうな、この無力感は。やらなきゃいけないことに囚われすぎて、やりたいことを探しているような余裕がない。きっとそれだけなんだ。

またネガティブに意識を奪われてしまった。なぜか千早と話したあとは、こうなってしまうことが多い。眩しい人間と一緒にいることに、きっとまだ慣れていないんだろう。

もう少し自分に自信があったら、俺は何ができるだろう。もしかしたら、千早みたいになれるかもしれないな。俺みたいな人間とも偏見なく関わっていくことができる、誰かにとって希望の光みたいな人間に。

まぁ、なれるわけないか。そう呟いて、玄関のドアを開ける。

「おかえり」

ちょうど母が靴を履いていた。出かけたりするんだろうか。

「どっか行くの?」

「ちょっと買い物にね。そうだ、代わりに行ってきてくれない?夕飯間に合わなくなっちゃうから」

うちの夕食が用意される時間は、父を基準に決められている。毎日同じ時間に帰って来るわけではないものの、大体8時頃には帰ってくる。今の時刻は7時半。なるほど、確かにギリギリだ。

「めんどくせ。何買ってくんの?」

エコバッグを受け取って、軽く悪態をついてから要件を聞く。どうせ頼み事を聞くなら、もう少し気持ちよく聞いたらいいのに。自分の子供っぽさが嫌になる。それに何も言われないことも、そこに甘えてしまっていることも。


まぁ、俺に頼むくらいのことなんてこんなもんだ。10キロの米が2袋入ったエコバッグはとても片手で持てる重さではなくて、抱きかかえるようにしてバランスを取る。今日の分は炊けてるんだったら、別に明日でいいだろ。心の中でそんな文句を言いながら、まぁでも、俺にとってこんなに苦痛なんだから、母にとってはもっと苦痛か、と自分に言い聞かせて帰路を辿る。

母の身長を越してしまったのは、いつの事だったんだろう。見上げていたはずの母が、いつの間にか俺より小さくなって、抱えられていたはずの俺は、いつの間にか母より重いものを持てるようになった。なんだか最近、成長について考えてばかりだ。もう大きくなりきってしまったみたいに昔のことを考えている。まだ子供のままなのに。

「ただいま」

夕食はカレーだろうか。特別好きというわけじゃないのに、なんというかわくわくする匂いだ。小学生の頃の俺ならきっと、今日の献立を聞いただろうな。カレーだよと言われて、やったーと大袈裟に喜んだりするんだろう。今の俺にはできないやり取りだ。

「おかえり。重かったでしょ」

母は玄関先まで来て、すぐに米を持とうとする。

「いいよ、俺が持ってくから」

そう言うと母が嬉しそうに笑ったので、俺は何となく嫌な気持ちになる。いや、きっとそうじゃない。これはただ、恥ずかしいだけだ。顔を見られないようにすぐに米を運んで、逃げるように自室に入る。

正しい行動を取っているはずなのに、それを喜んでもらえることが気恥しいのは、何故なんだろう。この心の釣り合いが取れていない感覚は、いつまで続くんだろう。そんなこともあったなぁなんて笑い話にできる日が来ることは、当分先のことになりそうだ。別にどうでもいいけど。


「反抗期っていつ終わるんだろうね」

思ったより昨日のことを気にしていたようで、そんな話を千早に振ってしまう。こんなこと、聞かれたって困るだけだろうに。

「人によるんじゃない?」

そりゃそうなんだろうなという答えが返ってきて、俺はため息をつく。

「家でなんかやっちゃった?」

なぜか嬉しそうに聞いてきたので、昨日のできごとを話した。

「え〜、いい子じゃん。なんだ、もっと口喧嘩とかしたのかと思った」

「うちは会話なんかしないから、喧嘩になりようがないよ」

しないというか、俺が意識的に避けているだけだけど。家族と同じ部屋にいることがしんどくて、自室にこもりがちなだけ。

「でも、今のうちしかできないことだと思ったらいいんじゃない?」

「どういうこと?」

「反抗期なんていつか終わっちゃうもんだし、感謝より怒りが先に来ちゃうのも、嬉しいより恥ずかしいが先に来ちゃうのも、今だけの特権なんだって」

なんだか大人みたいなことを言う。大人に言われても早く終われとしか思わないのに、千早の言葉になら耳を傾けようと思うんだから不思議だ。何を言うかより、誰が言うかなのかもしれない。

「それ、いいことだと思えないんだけど」

だけど、一応口は挟んでおく。俺はそういう奴だ。

「でもさ、宮城はそれに罪悪感があったわけでしょ?そしたら自分はちゃんとありがたいと思えていて、嫌だと思っていても人の役に立つことができるんだって言い換えられない?」

「…まぁ、確かに?」

「ほらね、特権だよ。いつか当たり前に感謝して、当たり前に人の役に立たなきゃって思うんだから」

なるほど。確かに自分が正しいと思っていたら罪悪感なんてあるわけないし、間違っていることをすることで自分が何を正しいと思っているのか知ることができたりするのかもしれない。

「都合よすぎない?それ」

「プラスに捉えた方が楽だよ、何事も」

一理ある。いつもいつも、千早の言葉には納得がいく。心の隙間にすっと溶け込むように、喉に引っかかることもなく飲み下せる。

「今ある時間を大切に、ってことか」

天を仰ぐ。夏というだけで、何となく空の青さは濃度を増しているように見える。透き通った青ではなく、厚く積み重ねたような青に。きっとそれは、堆く立ち上るような入道雲が張り付いたように見えるから。

今日の空は、越えられない壁のような重圧感がある。まるでこの先も、この空模様が続くみたいに。

そんなわけないのにな。移り変わるものだ、季節も、時間も、関係性も。そうやって、世界は回っていくものだから。覆い被さるようなこの空模様は、いつまで続いていてくれるだろう。


夏休みの宿題というやつを、完璧に終わらせたことがないように思う。やっていない、という意味じゃなく、100点になったことがない、という意味で。どうして誰も教えてくれる人がいないのに、絵や習字を提出させようとするんだろう。それを上手にやる方法を教えるのが教育機関の役目じゃないんだろうか。こんな出来損ないの絵もどきや字もどきを提出させられる子供の気持ちを考えたことがあるのか、徹底的に議論したい気分だ。そんな場を用意されたところで、何も言えなくなるのがオチだろうけど。

意味のない頭の中だけの反抗を終えて、書き終わった字に向き合ってみる。味だの魅力だのはひとつも感じない、やれと言われてやっただけにしか見えないものがそこにはあった。もし題名をつけろと言われたら、間違いなく義務感と添えるだろう。

今日は絶好のお出かけ日和だと言うが、朝の10時にも関わらず外気温32℃の猛暑の中、人はどこへ向かうんだろう。どうせ屋内で時間を潰すなら、1円もかからない家以外に選択肢はないように思う。


自室は学習机とベッドの隙間しかスペースがないので、わざわざリビングに新聞紙を敷いて取り組んでみたわけだが、どうにもこの大きな窓が不必要に日差しを俺に当て続けるのが気になってしまう。外を見てみると、確かに今日は絶好のお出かけ日和、降水確率なんてニュースを見なくても0%と言い切っていいようなとてつもない快晴だった。なんとなく、夏らしいことがしたくなる。泳ぐわけでもないのに海を見に行ったり、祭りにも行かずに花火をしたり、そんな細々とした夏を。

『今日暇してない?』

そんなタイミングで確認した通知は、まさに渡りに船と言ってよかった。向こうからしたら、藁にもすがるなのかもしれないが。

『めちゃくちゃ暇だし、ちょうど夏をしたかった』

我ながら変なメッセージになってしまった。でも、これ以外に適切な表現がない気がする。花火をしたいのも、海を見たいのも、今が夏だから。それ以外に、理由になるほどの言葉は見つからない。

『この炎天下の中外に出てみるだけで、それなりに夏じゃない?』

『確かに』

いつも通り公園に集合する。俺の家からも千早の家からも行きやすい場所じゃないんだから、別に駅集合でもよかったと思うけど。

「なんか久しぶりだって気がする」

東屋で待ってるね、という言葉通り、千早は先に来ていた。なんだか初めて会った時みたいで、少しだけ緊張する。

「3週間空いただけなんだけどね。俺も久しぶりって感じがするよ」

とは言っても、3週間って結構な月日だ。この間会ったときは気温は30℃を下回っていたし、まだお互い制服を着ていた。

俺はファッションには無頓着だから分からないが、なんとなく千早も女子なんだなぁという気がする。夏って一番着る服の選択肢が少ない季節だと思うのだが、それでも最低限のおしゃれはしているように見える。

「今日は何してた?私はずーっと寝てた」

「長期休みって生活習慣変わりがちだよね。俺は今日はたまたま早起きだったから、習字片付けちゃおうと思ってやってたよ」

「え、うそ、もしかしてやりかけとかで呼んじゃった?」

「全然。やり終わって一息ついたタイミングで連絡来たから、奇跡かなんかだと思ったくらい」

千早は大袈裟に笑う。あぁなんか、この感じも懐かしいな。よく考えると、3週間ってほぼ1ヶ月なわけで、今は夏休みのちょうど折り返し。何をしていてもしなくてもいい生活って、時間の感覚をおかしくさせる。

「旅行とか祭りとか行ったりした?」

「全然。家にいる時間が長いかな」

「俺も。なんか余裕があっても、海外旅行とかしないタイプなんだろうな」

「あーわかる。何日も家で過ごすことを苦痛だと思わないよね」

数ヶ月話をしていくうちに、俺にとって千早は眩しい人間ではあるんだけど、俺と近しい感覚も持っているんだろうなと思うようになった。同じ世界を生きているんだから似たところはあって当然なのに、俺にとって眩しい人間は何もかも違う捉え方をして生きているんだと思い込んでいたことも、最近になって知った。

思い知る、という言葉にマイナスなイメージがあるのはなぜなんだろう。自分で考え合点がいって、納得したという以外の意味なんてないだろうに。どれだけ考えてもこの人のようにはなれない、そんなこと絶望でもなんでもないのに。元々望むべくもないことなんだから。

「で、夏をしたいってどういう意味なの?」

頭の中だけで張り巡らせていた思考の糸が、千早の声でぷつんと切られる。これも慣れない感覚だが、不思議と嫌じゃなかった。どこに行くべきかもわからず立ち竦んでいるときに、手を引いてもらうみたいで。

「そのままの意味。夏にするから意味があることをしたいなって」

「なるほどね。意外と季節に感慨があるんだ」

こんなことを思うのは人生で初めてだよ、と言いかけてやめた。何も考えず生きてきたと思われたくないというプライドなのか、他の理由なのかはわからないけれど、とにかく言えなかった。

「でも、夏にするから意味があることって何があるかな。海も花火も、夏じゃなくても楽しいよ」

「まぁ、それはそうなんだけど。かと言ってカブトムシを取りに行こうか、とはならないから」

「そういえば、虫苦手なんだっけ」

千早は最近、俺の弱い部分を嬉しそうに話す。それは俺に、痛いようなくすぐったいような、うまく説明できない感覚を引き起こさせる。

「苦手っていうか、すごく無理」

「もっと駄目じゃん。じゃあ、かき氷は?」

「香りが違うだけで同じ味のシロップを氷にかけて食べるやつね」

こういう嫌なことを言っているときの俺が、一番いい表情をしているような気がする。楽しそうに嫌なことを言う奴、嫌いだったはずなのにな。こういうことを言う度に自分を嫌いになっていくのをわかっていてもやめられない。心の釣り合いが取れない感覚はいつまで続くんだろう。この間もそう思った気がする。

「というか、今普通に流しちゃったけど、花火とか海は選択肢に入らないの?」

「それをやっちゃったら、夏が終わる気がするじゃん」

「自分も感慨あるタイプじゃん。何回やったっていいんだし、やらずに終わる夏よりやって終わった方がいいでしょ」

「まぁ、確かにそうなんだけどさ」

千早はどこか遠くを見つめるような目をしていて、話を聞いていないみたいに歯切れが悪い。

「今年の夏は、一緒に過ごせると思ってたから」

…もう少し人生経験があったりしたら、俺も何か言えるんだろうな。どうにもならないことに直面したとき、俯瞰したような目線で自分を見て、どうにもならないなと納得する感覚。そのおかげで、謝り倒してもっと空気を悪くするなんてことをしないで済んでいるから、この悪癖も捨てたもんじゃないのかもしれないが。

そうか、千早はまだ、失恋を乗り越えられていないのか。数ヶ月経っても影を振り切れないでいるのは、きっとつらいことだろう。同じ感覚を共有できない歯痒さが募る。

「でも、くよくよしててもしょうがないよね。私があの人とやりたかったこと、全部付き合ってくれる?」

「なんというか、俺でよければ」

俺の返事に、千早は笑ってくれる。それはとても寂しげな笑顔で、胸の奥を針で突かれたような痛みを感じる。

真逆とまではいかなくても、ばらばらな方向に心を引っ張られている感覚に襲われる。子供の頃、スライムを引きちぎって遊んでいたことを思い出すような。思っていたより心は柔らかくて脆い。ぼそぼそした断面をぼーっと眺めるように自分の心の機微に付き添って、理由もわからないまま喜んだり悲しんだり、寂しがったりする。


帰り道って、こんなにも孤独なものだったっけ。街も、風も、揺られている枝も寂しげに見えてしまう。景色の表情は自分の主観で決まるものなんだ、というのが、頭の中を渦巻く些細な物思いのうち、一番見覚えのあるものになってきてしまった。

頭はこんなにも冷静に、あれは非日常だと割り切っているのに、心はそうじゃないみたいだ。心の在処は脳みそじゃなくて、もっと別のところなのかもしれない。道端で綺麗な石を見つけたことくらい簡単に忘れてしまう物思いを、それでも膨らませ続けることでしか発散できない不器用さを呪ってみても、この胸のつかえは取れそうにない。帰って寝てしまおう。どうせ、明日には忘れてしまうことだ。


ただいまも言わずに自室に籠ってしまう日があることを咎められなくなって、俺にとっても両親にとってもそれが当たり前になって、声をかけないからと言って心配されたりもしなくなって、その状況に甘えるように、口を噤んだまま自室のベッドに寝転がる。


昼過ぎまで寝ているようなだらしない生活が生み出した、ただ更けて明けていく夜を眺める時間。それは無駄以外の何物でもないのに、学校が始まったらできなくなることだからと言い訳をして、俺はやめられないままでいる。ヘッドホンをして深夜ラジオを聴きながら、夜が終わるのを寂しく思う。このまま夜が終わらなければ、明日が始まらなければ、俺は先のことなんて考えなくていいのに。昼間はこんなこと考えもしないのに、なぜか夜だけはここで時が止まって欲しいと願ってしまう。

そんなふうに思っていても、どうせ明日は今日になる。


「ということで、今日は海に行こう!」

昨日あのまま机に突っ伏して寝てしまった俺を起こしたのは、朝7時の千早からの電話。寝ぼけた頭に駅で待ってるから、というよく通る声が響き渡って、俺は昔何かで見たラッパの音で叩き起される自衛官みたいな速度で準備を済ませてきた。

空白の夏休みだって言ったのも俺だし、夏をしたいって言ったのも俺だ。だから、この時間にこんな提案をされても拒めない。

「でも、泳ぎたくないから見るだけにしよう」

千早の提案に、助かった、と思う自分がいる。別に泳げないわけじゃない。髪がバリバリになったり、いくらシャワーを浴びてもベタつく感覚が抜けないのが苦手なだけだ。海水と相性が悪いとも言える。

「こんな早い時間から集合ってことは、どこか遠くに行くの?」

「うん、灯台があるんだって」

「へ〜、ちょっと楽しみ」


「さて、ここから3時間電車に揺られます」

まだ通勤時間に被っている電車内はどこにも座るスペースがなく、俺たちはドアの両端に向かい合わせになる。

「俺めちゃくちゃ眠いんだけど大丈夫かな」

「その点は大丈夫。私がちゃんと起こすよ」

電車を3つ乗り換えて目的の駅へ向かう。景色は段々と田園風景に変わってきて、それから森の中を切り裂くように進んでいく。

まぁ、景色を楽しんでいるのは俺だけだ。出発するときの威勢はどこへやら、千早は完全に眠ってしまっている。目的の駅に着くまでに起きてくれるか、寝覚めがよくて声をかけたら起きることを信じたい。あと8駅もあるにも関わらず、俺の中にはある種の緊張感が芽生えていた。


「千早、着いたよ」

アナウンスが流れた時点で声をかけてみる。うめき声が帰ってきただけで、起きる気配はない。

「ほら起きて」

仕方なく肩を揺らす。目を開けてくれたので安心していると、またすぐに眠る体制に入ってしまった。

「残念だけどもう寝られないよ。ほら起きて」

ドアが開いてしまったので、多少強引に引き起こす。寝ぼけながらも着いてきてくれて、なんとか降りることができた。

「どこ、ここ」

どうやら千早はものすごく寝起きが悪いらしい。というかこの感じ、多分寝ずに駅に来たんだろうな。意外に計画性はないのかもしれない。突然決まったんだから、もともと計画はないようなもんだけど。

「千早が連れてきたんだよ、ここまで」

俺が声をかけると、千早はぼーっとした表情でこちらを見つめ返す。

こんなに寝起きが悪いのに、俺の夏をしようの一言だけで頑張ってくれたんだなぁと思うと、ありがたいというよりは申し訳ないと思ってしまう。

「あぁ、そっか、海に行くんだよね」

目的を思い出してくれたようだ。目を擦りながら、携帯のマップアプリを開いている。


しかしまぁ、遠くまで来たものだ。県を跨いで移動することってあまりないから、こんな突発的なイベントでも楽しみになってきている。

「ここの海岸が、綺麗な割にあんまり混んでなくていいらしいよ」

しばらく歩いて目が覚めてきたのだろう、だいぶ饒舌に話すようになった千早が、道の先を指している。

「混んでないって紹介されてるなら、俺たちと同じような考えの人達がいっぱいいるんじゃないかな」

「そんなことないよ、見たらわかるでしょ」

千早の指の先の景色は、ずっと遠くの方に森が見える以外は、広大な田畑とわずかな住宅がまばらに点在しているだけに見える。

「もしかして、ここから曲がるとかじゃなくて、ここをずーっとまっすぐ?」

「うん、ここをずーっとまっすぐ」

よくもまぁ、寝起きでこんな道を歩く気になるな。少し休みたいと思ったりしないんだろうか。

「そういえば、千早は朝ごはん食べた?」

「ううん、私、朝って食べないから」

「やっぱり面倒だよね。俺も食べてない」

平日の朝を好きになれる日も、いつかは訪れるんだろうか。もしそんな日があったなら、俺は幸せにやっていけてるんだろうと思う。

「でもさ、お腹空かない?」

駅を離れてしまう前に声をかける。

せめて休日の朝くらいは、こんな非現実くらいは好きになってもいいんじゃないだろうか。朝と言ってももう10時過ぎだし、平日の朝にこんな余裕はないにしても。

「まぁ、たまにはいいかもね。朝ごはんも」

栄えているとは言えないまでも、廃れているというわけでもないこの街には、幸い喫茶店があった。家とお店の中間みたいな内装の店内は、窓越しに照らす朝の光でより懐かしく感じられて、それだけで朝7時に起きたことを肯定できるくらいの趣がある。

無口な店主に指されたテーブル席に腰かけて、メニューを開く。個人経営にありがちな、選択肢があまりないタイプのお店らしい。迷わないで済むから、俺としてはこっちの方がありがたい。

「私、ホットサンドにしようかな」

「じゃあ俺も。飲み物は?」

まぁ、メニューなんて多くても少なくても、割り勘にしやすいように人に合わせてしまう癖はやめられないから、別に関係ないんだけど。俺が払う方がかっこいいのかもしれない、という考えが一瞬過ぎったが、さすがに気持ちが悪すぎる。

「うーん…キャラメルマキアートにする」

「俺は…うーん…アイスコーヒーで」

食事をしながら甘いものを飲むという行為、ずっとできないんだろうなぁと思う。考えてみたら、子供の頃からお茶や水を飲む方が好きだったような気がする。そう思っていると甘いものを飲む時間は人生の中で減っていって、味も知らない飲み物が増えていく。それはなんとなくもったいないような、別に好きじゃないんだからそれでいいような、よくわからない感覚に陥ってしまう。こういう感覚と常に隣合わせの人生だ。一瞬でネガティブに転げ落ちることができるのは、ある意味才能と言えるかもしれない。

「それにしても、なんで今日なの?」

まさか昨日の今日で予定を立てられるとは思っていなかったし、昨日の様子では千早の方も、あまり乗り気ではなかったように見えた。

「思い立ったが吉日、ってやつだよ」

ホットサンドを頬張りながら、千早はそう答える。

「やりたくなったことはやりたいうちにやらないと、後悔しちゃうことになるかもしれないから」

グラスの中の氷が溶けて、からん、と小さな音がする。千早の言葉を反芻しながら、結露した水がテーブルを濡らすのを、ぼうっと眺める。

「ということは、近いうちに花火もやるんだ」

「もちろん。もう買ってあるよ」

思い立ったが吉日、か。やりたいことができたら、参考にしてみよう。


改めて歩き始めると、分かっていたことだが、やっぱり遠い道のりだった。少しでも間を持たせようと矢継ぎ早に紡いでいく話題も尽きかけた頃、やっと森の手前まで来た。

「これ全部防風林なんだって」

「へ〜、じゃあこの先が海岸か」

ちょうどこの間、授業でやった気がする。吹き晒す風を抑えるための林。確か海岸沿いに植林されるのは松の木なんだっけ。

「あともう少しだね、頑張ろう」

大袈裟に気合を入れ直して歩いていく。腕時計を見てみると、もう1時間半は歩いたらしい。日頃運動なんかしないくせに歩くのだけは好きなので、気付いたら知らない街にいる、みたいなことは数え切れないくらいある。だいたい翌日は筋肉痛になるので、今回もきっとそうなんだろう。


こんな気温でも、日陰はいくらか涼しさを感じる。いや、こんな気温だからなのかもしれない。

滝のように流れていた汗はいつの間にか引いて、活力が戻ってきたような気がする。

「ここの海にしたのは、何か拘りがあったから?」

その弾みで、水平思考ゲームみたいな質問をしてしまった。人と会話するのに慣れていないのを悟られるような気がして、勝手に恥ずかしくなる。

「好きな映画のワンシーンにここの海岸が出てくるんだって」

「好きな映画って、誰の?」

言ってしまってから、聞くべきじゃなかった、と反省をする。そんなの、千早がこの夏の予定を失った理由を考えたら分かることだったのに。

「彼…元彼の」

それきり会話は止まってしまう。何か言わなきゃ、と思えば思うほど思考は短絡的になっていって、フラッシュ暗算のごとく文章にならない単語だけが頭を埋めていく。

「私にとっての『夏をする』は、ちゃんと彼のことを忘れることなんだ」

前を歩いている千早の表情は、当たり前のことだが見えない。だけどきっと沈んでいるんだろう。

「気に病まないでね、そもそもここに来られたのは宮城のおかげなんだし」

千早はこちらを振り向いて言う。その表情は思ったよりも明るくて、とても別れた彼のことを引きずっているようには見えなかった。

「本当は多分、沈んで一言も話せなくなっちゃうんだろうなって思ってたの。でも全然そんなことなかった。確かに少しはつらいけど、それでも楽しいと思えてる。宮城のおかげだよ」

…そんなことを思ってもらうほど、何かやったわけじゃない。頭に最初に浮かんだのはそんな言葉だった。

「俺は何もしてないよ。きっと千早の心が、前を向き始めただけだよ」

やんわりとした否定文を必死に紡ぐ。心からそう思っているかと言えば、そうとも言い切れない。一生懸命話を振ったこととか、充実した休日を過ごしてもらおうと思っていることが、もしかしたら千早の一助になっているかもしれない。そう思わないわけではなかった。

だけど、自分に過度に期待をしたくなかった。こんなことすら過度だと思ってしまうくらいに自信がないから。

「あはは、そうだといいんだけど」

打って変わって浮かんだ壊れそうな笑顔に、千早自身は気付いているんだろうか。きっと心の中に居座っているのは、大好きだった彼に違いない。思い出を追いかけるように、過去に縋り付くように、過ごした日々に苛まれているんだろう。

「もうすぐ海だよ、頑張って」

それきり千早は海に着くまで、こちらを振り返ることはなかった。だから、何を考えていて、どんな表情を浮かべているのか、俺にはわかりようがなかった。何も気付かないふりをして、考えなしに見える話を振って、少しでも気を逸らそうとする以外には何もできやしない。

俺なんて、そんなもんなんだ。


「海だ!」

やっと辿り着いたその場所は、俺が想像していたような海水浴場ではなく、津波や満潮に備えて整備された堤防だった。コンクリートの階段を昇ると、視界はほとんど海になる。やかましいくらいの太陽を反射してきらきら輝く海は、この世に多種多様な生物が存在している理由を説明するのに充分な力強さと、恐ろしさみたいなものがある。

「海だね…」

目の前に広がるそんな大自然に、絞り出すように千早の言葉を繰り返すことしか、俺にはできなかった。

「私がここに飛び込もうって言ったら、底まで一緒に沈んでくれる?」

「…え?」

千早の方を見る。海のずっと遠くの方を見据えながら、俺の言葉を待っているようにも、ただ呟いただけのようにも見える。

「あ、ここの海岸のシーンのセリフなんだ。映画の」

俺の視線に気付いて、千早は悪戯っぽく笑った。

「あぁ、なるほどね。びっくりした」

「あはは、ごめんごめん」

実際、俺がそう言われたとしたら、何を答えるんだろう。お好きなように、とか、そうしたいなら、みたいな言葉しか出てこないんだろうと思う。きっと、誰に対しても。

あまりにも自分というものがないのか、それとも意識的に自我を出すのを避けているのか、最近はもう判断がつかなくなってきた。もう少し自分勝手な子供だったと思うし、やりたいことをやらなかったような経験もないと思うのに。

「私は、一緒には行けないよって言うんだろうなぁって思う」

まぁそうだよな、普通。自分と違う意見を聞く度に思う。自己主張をしなくなった代わりに、自分が周りからズレている人間だという自信だけが深まっていく。皮肉な話だ。自分はこういう価値観を持っていますと発信しないから、それを肯定も否定もされずに、自己評価に頼って生きる。だから自分の価値観に自信が持てなくて、変な人間なんだという自覚だけが強くなって、また自己主張ができなくなって…。そんな悪循環にいることを変えようと思えるわけでもない。

「だって、そうやって一緒に死んでしまったところで、私達は孤独だと思うから」

俺がネガティブに沈んでいる間にも千早は何かを考えているようで、発言の意図を考えさせるような言葉が聞こえてきた。

「私達は孤独を分け合うためじゃなくて、私達自身のために一緒にいるんだと思うんだよね。違う環境、違う境遇、違う価値観で生きてきて、同じ考え方も違う考え方も、それを好意的に捉えられるかどうかだけが、人との関わりを深める理由だから」

いまいち、千早の言いたいことを捉えきれない。人付き合いそのものがエゴだと言いたいんだろうか。

「だからさ、どれだけ一緒にいたって私達は孤独なんだよ。自分の孤独に巻き込むように一緒に死んでほしいって言う人のことを、私は好きにはなれないだろうから、一緒には行けないなって思っちゃうんだろうな」

「よく分からないんだけど、一緒にいるかどうかを自分で選ぶような関係性って、つまり孤独だってことなのかな」

別に踏み込まなくたってよかったのに、俺は突っ込むように聞いてしまう。

「結局はお互いに選び選ばれているわけだから、それは孤独じゃないと思うんだけど」

俺とは違って。自分に対して浮かんだ嫌味を心にしまう。

「でもその関係性を断つことは、そのどちらか一方の気持ちひとつなんだよ。それは孤独って言えないのかな」

「それは、その段階になって初めて孤独になったってことだと思う。一緒にいる限りは孤独じゃない」

否定するほどズレた価値観だと思っているわけではないし、この会話が噛み合っているとも思わない。味がしなくなったからガムを捨てるね、と言っている人間に、でも最初の方は味があったんでしょ、と言っているような、トンチンカンな返事をしている。それでも俺は、ズレることをやめようとは思わなかった。

「例えば図書館で本を借りたとき、それを自分のものだとは思わないでしょ。それと同じで、終わりのある関係性は自分のものじゃない」

「買った本でもなくしたり捨てたりすれば自分のものじゃなくなるよ。それでも手元にある限り、それは自分のものでしょ」

きっと今俺は、千早の根の部分に触れている。初めて会ったときに見た泣き腫らした目が頭の中を埋めている。こんなにもズレた会話をして、意味もなく食い下がるのは、きっと千早が今を乗り越えるのに必要なことだと思うから。

この先、千早はもっといい関係性を築けるようになって、もっといい恋愛をして、ちゃんと幸せになれる。この数ヶ月間で、千早はそれができる人間なんだと確信している。それをちゃんと信じてもらう為には、まずは乗り越えてもらうしかない。

「終わりを怖がるんじゃなくて、幸せな瞬間を繰り返せることを期待しようよ。今はまだできないだろうけどさ、そうなりたいと思うことだけはやめないでいよう」

こんなことを言えるほど、俺は高尚な人間じゃない。俺自身がこんな価値観で生きているかと言われればそうじゃないし、人に言われたってきっと信じられないだろう。

だけど、自分勝手でも何でもよかった。俺は千早を信じているから。

「そう、だよね。うん。宮城の言う通りだ」

きっと俺は、これから先も何度か、千早のこんな顔を見ることになるんだろうと思う。そして、俺も同じ表情をしてきたんだろうとも。

正しさを突きつけられたときだとか、価値観を押し付けられて、それに対する反論が思い浮かばないとき。自分がちっぽけな存在であるような気がして、何もない空っぽな人間なんだと思ったりして、とりあえず同意してみたりする。それでも心の底から納得しているわけじゃないから、それが顔に出る。それを見ないフリをしながら、俺は話を続けていく。

「大丈夫、千早ならできるよ」

俺はそれなりに、絶望とか後悔をして生きてきたつもりだ。だから、人の悲しみにも少しくらいは寄り添える気がしている。

千早がこの悲しみから抜け出すまで。そんな非日常を終わらせられるまでは、せめて俺だけでも側にいてあげたい。そんな傲慢なこと、口にできるわけじゃないけれど。

「ありがとう。今日は来られてよかった」

目の前で勝手なことを宣う人間に対して、俺はありがとうなんて言えるだろうか。勝手なことを言っているのは俺なのに、そんなことを思う。

「なんていうか、本当に嬉しいんだ。本気でそういう風に思ってくれているんだなぁって、すごく伝わってくるから」

千早の笑顔を見ていられなくなって、目を逸らす。悲痛な笑顔じゃなくて、嬉しそうな顔を見ていられない。自分の身の丈をはみ出すような行為をしたとき、どういう顔をしたらいいのかわからない。

「ね、明日は空いてる?」

そんな俺の心を見透かすように、千早は話題を変える。黙って頷くと、ぱんと手を叩きながら言う。

「じゃあ、花火をしよう!河川敷ならたぶん怒られないよね」

「まぁ、怒られてもそのときはそのときだよ」

素直に謝ったらいいし、ちゃんと怒られたらいい。何度だってやり直せることなんだし。

「それもそうか。じゃ、明日は夜集合だね」

夏休みが始まって以来避け続けてきた、昼3時の気温と日差し。何の遮蔽物もなくそれを受けているのに、不思議とだるさはなかった。それどころか、こんな時間が続けばいいとすら思う。いや、有限だからそう思うんだろうな。この瞬間は、引き延ばせるようなものではないんだろう。そんな有限を愛するために、生物には終わりがあるのかもしれない。


そんなことを考えてしまうくらい充実した時間は、だからこそあっという間に終わっていく。行きはあんなに長かった電車も、帰りはもう着いたんだ、と思うくらいあっという間で、本当に同じ道を辿ってきたのかと疑うくらいだ。

「じゃあ、また今度…いや、また明日」

「うん、また明日!」

微妙な位置に上げた手が、合わせられない視線が、数ヶ月経っても千早の存在に慣れていないことを自覚させるようで、ふとした瞬間に向かい合ったり挨拶を交わすことが苦手だ。

でも、それでいいんだと思う。俺にとってこれは非日常で、千早にとってもきっとそうだ。俺にとっては浮ついて、千早にとっては落ち込んで、そんな普段とはかけ離れた状態がたまたま重なり合っただけ。いつか終わりがくるこの時間を引き延ばすために、俺には何ができるんだろう。そんなことを考えながら帰ると、いつもより早く家に着くことに気が付いた。そして、その疑問に答えを与えるのには時間がかかるんだろうなということも。


明日はきっといい日になる。今日を終わらせるには、そんなことを信じられるだけで充分だ。ぼーっと夜を眺めることも、深夜ラジオを聴くことも、本当は必要ないのかもしれない。…いや、深夜ラジオはちょっとだけ聴きたいと思っているけれど。とにかく今日を終わらせられるのは、今日に満足できているからだ。眠りに落ちることに何の抵抗もないことを嬉しく思いながら、明日のことを考えてみた。

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