第4話・2+1(後編)

「本命のプレゼントはもう買ってるから、しぃに選んで欲しいのはジャブだ」

 珍しく助手席に座りながら、ウメ先輩の真剣な提案を聞いた。

 相変わらず少し無機質な口調だけど、という独特なあだ名で呼んでもらえると妙に安心感がある。

「ジャブ?」

「割りとガチ目の買ったから、それ渡す前に様子を見たいんだ。ジャブが重すぎると本命が薄れるし、弱すぎると冷める……難しいからこそ、しぃに協力してほしい」

 考えすぎなとこも相変わらず。けれど、それはすべてアザちゃんを想ってのことだし、そういう不器用というか真面目なところが……グッとくる。強気な見た目をしているのでなおさら……!!

「割りとガチ目の本命プレゼントって……貴金属ですよね?」

「言い方……。でもまぁ、そうだよ」

 確かにどストレートのプレゼントを渡す前に相手の反応を伺いたくなる気持ちはわかる。というか想像してみたらちゃんと怖い。アザちゃんだったら何もらっても絶対喜んでくれるとは思うけれど。

「わかりました」

 というわけで、今度はアザちゃんへの誕生日プレゼント選びを協力することに。

 国道246号線を走りながら、私は顎に人差し指をおいて考える。

 重たくなりすぎず……でも確実に喜んでくれる……ちょっとホッコリするくらいの……。

「あっウメ先輩、こういうのはどうです?」

 少し記憶を探ったあたりで、すぐにこれしかないという品を思いつく。

「なるほど。それは確かに盲点だった」

 それを伝えるとウメ先輩は唸るように感心し、目的地へとハンドルを切った。


×


「さんきゅな、しぃ」

「いえ、お礼はアザちゃんの笑顔を見たあとでお願いします」

「それは別で言うよ。まずは今日、付き合ってくれた礼だ」

 車の後部座席には、シックな社内の雰囲気には少しそぐわないアニメショップのビニール袋が置かれている。

 私がウメ先輩に提案したのは、アザちゃんがずっと好きだと言っている日常系アニメのブルーレイボックス。前にアザちゃんが『手元に置いときたいけど……買うならブルーレイがいいな……でもちょっと高いしな……』と呟いていたのが記憶に残っていた。

「アタシ一人だったら思いつかなかったし、思いついても、ああいう店入るのだいぶ躊躇ためらったかもしれない」

 確かにギャルギャルしいウメ先輩が単身で乗り込むには、オタク達の視線が気になるかもしれない。でも安心して欲しい。オタク達は基本推しグッズにしか興味がないから。すぐ横をキレイなお姉さんが通り過ぎても、意識はすぐに目の前の推しグッズに戻るから。

「この後なんか予定あんの?」

「特にないですよ」

「じゃあもうちょっと付き合ってよ」

「喜んで」

 ウメ先輩の運転する車はいつの間にか高速道路を走り、最も早く見えたサービスエリアへ吸い込まれていく。

「好きなんだよね、平日の真っ昼間にさ、車走らせてサービスエリアで美味いもん食って昼寝すんの」

「シフトに平日休みが多いのはそういう理由ですか?」

「まあね。休日はどこも混んでてうんざりするし。そもそも土日は人手不足ってのもあるけど」

 何でも好きなもの奢ってあげるというお言葉に甘えて、私は名物らしいメロンパンを買ってもらった。衣はサクサクだけど噛みしめると生地はふかふかしている。温かくて、甘ったるくて、おいしい。

 それから車に戻ってシートを倒し、二人で昼寝をした。初めて味わうタイプの非日常感に、少し、胸が高揚する。

「ほい。これ使って」

「ありがとうございます」

 手渡されたブランケットから、アザちゃんの香りがする。

 顔を出して深呼吸をすると、車内はウメ先輩の香りがする。

「……」

 ここに、私の香りはない。

 知っていた。二人はもう、二人の世界で生きている。

 どれだけ親しくしても、結局は二人と一人なんだ。

 深呼吸をして、熱くなった目頭を鎮める。それでも涙が溢れるのが怖くて、ウメ先輩に背を向ける。

「しぃ……?」

 しばらくしてから、少し心配そうなウメ先輩の声が聞こえた。

「……」

「しぃ。ありがとう」

 私が起きていることに気づいているのだろうか。ウメ先輩はそれ以上何も言わずに、微かに私の頭を撫でる。

 それから昼寝の終わりを告げるアラームが鳴り響くまで、私は二人の香りに包まれ続けた。

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