64 散策

 最近シェファーと、ずっと居る。散策と決まってからだ。





 騎士班(仮)で決定した次の活動。インテグレイティアの外側を皆で歩くの。週末の土日をフルに使って、フィールドワーク。


「レイン」

「はい、王様」

「明日は早いのだから、早めに寝なさい」

「……はい」

 バレてる…………僕が最近夜ふかししてるの。









「私が居ないと、そんなことしてるの? レイン」

 ヒェ。

「してない、してない。してないからね? オニキス」

 ベッドの中で、布団に潜り込んで、オニキスにしがみつく。オニキスはインテグレイティアへ来ると、僕の部屋に泊まる。サラセンホテルに部屋を取らなくなった。

「明日、ヒプノス島へ帰るよ」

 僕は布団から顔を出した。

「何時?」

「レインは外出でしょ?」

 オニキスに抱きついた。

「レインは男の子でしょ? レインって、何才?」

 知ってて訊いてくるんだ。オニキスって、僕が居なくても寂しくならないの?

「ずっと、六才だもん」

 オニキスが笑ってる。

「……夕方まで居るよ。レインが帰って来るまで」

「待っててくれるの?!」

「約束はできないけど」

 そう……だよね。オニキスは仕事で来ているだけなんだ。

「充分だよ、オニキス。…………ありがとう」









 車の中。


 王様が運転している。助手席にヒルコ、後ろにシェファーと僕。

「今日は、レインが知ってる場所から始めましょうか」

 車は指定キャンプ地へ向かう。

「王様。あそこ、田舎で何もないですよ?」

「レイン。レインの知らないもの、新しいもの、変わっているものを見つけたら、私に報告して。できますか?」

「……はぁい」

 そんな、報告なんて大層なもの、ないと思うけどなぁ……

「シェファーも、私に教えてくれますか?」

 な〜〜んか王様って、シェファーに優しくない?

「はい、僕も報告します」

 シェファーもさ、王様に素直じゃない?

「レイン、私に報告書、書き方教えてくれる?」

 ヒルコの方がおにいさんで、班長なのにね〜〜。

「いぃですよぉ」





 王様はヒルコに、帰りは指定のタクシーを使って領収書をもらうように、説明していた。こういうのは、僕には未だできない。ヒルコはやっぱり頼りになる班長さん。

 王様は行ってしまった。ヒルコとシェファーと僕。


「シェアサイクルのポートへ行こう」

 ヒルコは言った。

「え、自転車? 散策って、歩いて行くものじゃないの?」

「レイ〜〜ン、何キロ歩くつもり? 歩くので疲れたら、注意力ゼロになっちゃうよ」

 はぁ〜〜〜〜ん……そ〜〜ゆ〜〜ものですか……

「外縁部は都市部アーバンより外周が大きくなるから、徒歩ではカバーしきれない」

 ヒルコはちゃんと今日の活動を俯瞰して、行動計画をかんがみているようだ。インテグレイティアには、レンタサイクルとシェアサイクルが充実している。郊外より田舎だと、シェアサイクルの方が多いかな。どこのポートに返してもいいから便利……だからだよね。

 僕たちはトロイアホームセンターに併設のポートへ行った。田舎だとホムセンとポートが同じ敷地にあることが多い。





 とりあえず、朝ごはん代わりに、早朝から開いている屋台でお買い物。

「たこ焼き二つください」

「ヒルコは?」

「私は、あれ」

 ヒルコが指差したのは、名前を口にすると争いが起きる、甘い餡あんこの挟まった丸い焼いたアレ。

「カスタードの買ってくる。おやつ用は欲しい?」

「欲しい!」

 へへ〜〜。な〜〜んか遠足みたい!





 自転車のカゴに鞄を入れて、三人で防風林の外側、人が住んだりしてる生活圏内の外側まで出る。農村部の田園風景は、人間が造った世界だ。田んぼや畑や道があって、外側にはそれらがない。きっと空から見たら、色がくっきり違うはず。荒れ野に変わる境界線を自転車で行く。


「人間が居る世界と居ない世界」

「レイン?」

「シェファーはどっちが好き?」

 荒れ野が拡がっている。飛び出しているのは物流鉄道。発電所や変電所、工場とか採掘施設、人間はどこにでも居るのだろうけど、住んでる気配はしない。

「アーバン」

 そうシェファーは答えたのに、シェファーは外側を見ている。

「僕は」

 どっちだろう…………オニキスが浮かぶ。僕は場所じゃなくて、人が浮かぶのか。六才の僕なら、両親の居る外側が真っ先に浮かんだろうな。

「シェファーと同じ」

「家が……ある」

 先頭のヒルコが言った。





 防風林に埋もれるように、民家が一軒。遠目にも寂れた場所。ヒルコが『家』と言わなかったら、納屋と見間違えて通り過ぎてしまったかも。


 僕は、はたと気付いた。これは…………『散策』じゃない。『探索』なんだ。僕らは王様の騎士で、王様から、この国の外側で何か変わったことはないか、調査するように…………これはそういう活動なんだ。


 僕らは、多分、試されてる。このチュートリアルを、この練習を、この……何かをやり遂げないとならない。





 僕は俄然、やる気に満ち溢れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る