60 トゥインクル・ユニコーン
レインがお菓子を食べている。レインは、甘いものが大好きだ。
「全部おんなじ、甘いだけだよ」
オニキスはマシュマロペガサスの翼を
「それは曇り空ヨーグルト味なんだけど」
レインは
「ふふ、角はキャンディ」
オニキスは何もない
「オニキスは角も翼もないでしょ?」
レインを見る。ほんの一瞬、持ち得ぬ黒い馬は落ち込む。
「
オニキスはレインのベッドへ横になって、マシュマロの袋をレインに返した。
「ユニコーンを取っ捕まえて、角をぶんどろう。ただの偏屈な白馬にしてやる」
オニキスは布団の中からレインの脚を掴んで引きずり込もうとしたが、にべもなく手を払われた。知育菓子の作成に取りかかっていたレインは、魔法の粉に夢中だったのだ。
「毒耐性を付与しました」
「何だって?」
「ソシャゲなら実績解除です」
「まぁ、遠からず、か」
トライホーンラボラトリー。ラボのアーカイブは、黒曜馬に関する膨大な研究資料を有している。
「仕上げは魔法のキャンディチップ」
浮かれた研究所員に返答するものは、もう居なかった。
放射線被曝による免疫と代謝の機能限界について。簡単に言うと、それを元に応用実験が行われていた。
バイオマテリアル総合体を使った実証実験で、成長ホルモン分泌を促すスイッチ機構を人工的に後付けして、経過観察を見ている。治験から臨床試験への道も遠くはないだろう……と願いたい。
ふわふわのマシュマロを噛む。口の中でジュワっと溶けていく。レインは消えていくキラキラユニコーンを飲み込んだ。
「ん」
レインから差し出された袋を覗いて、シェファーは言った。
「ぅわ! 僕は甘いの、いいよ」
「虹空サイダー味だけど? (美味しいに決まってるじゃん!)」
「モバイル昆布あるし、要る?」
シェファーから板ガムのようにスッと差し出された、黒緑色の薄い昆布にレインは一瞬目を奪われる。が……
「渋! 美味しいの?」
「梅味だよ! (約束された旨さだよ?)」
ヒューバート登場。
「僕は、どっちも好きだ」
二人からマシュマロと昆布を受け取って、どちらも口に入れる。
「あ〜〜ぁ……」
「別々に! ……食べてよ〜」
レインもシェファーも、信じられない面持ちでヒューを見る。
「あ、ヒュー。見て見て。コンポタがLサイズも選べるようになっててさぁ……どうしたの?」
イハト登場。
「半分飲む?」
「ありがと」
ヒューはイハトから紙コップを受け取り、熱々コーンポタージュスープを飲んだ。
「マシュマロと梅昆布と……コンポタ」
レインとシェファーは、絶望の口内を想像してしまう。
「え〜〜何の話〜〜?」
イハトは、レインとシェファーから無言で差し出されたお菓子を見て……
「わ! ありがとう。でもコンポタとは合わないかな〜」
イハトは礼だけ述べて、どちらも受け取らなかった。
「レイン」
放課後の図書室、レインとシェファーは宿題をしていた。レインは息抜きに本棚を見て回っていたら、ヒューが居た。
「ヒュー。イハトと帰らなかったの?」
「本、見たいのあったから」
「ふぅん」
「レイン、ないしょだぞ?」
「何?」
ヒューは鞄から小箱を取り出して、開けて見せた。
「手」
小箱の中の薄紙を一枚引き抜いて、レインの掌に乗せると、中身を半分寄越してくれた。
「
白や水色の三角錐形をした、半透明の琥珀糖は、綺麗で……食べられる菓子であることを忘れそうだった。
「ありが……とう、ヒュー」
ヒューが見ていた画集には、ユニコーンが描かれているのが見える。
ヒューはきっと、ユニコーンが好きなんだ……
レインはそのことをヒューに確認せず、ないしょのままにした。
浮かれた研究所員クレイシアは、今日の日誌を記入していた。
紙の記入式である日誌の頁を埋めていく。備考欄も必ず埋めなくてはならない慣習で、機嫌のすこぶる良いクレイシアは、K265(ケッヘル二百六十五番)をハミングしながら、日誌を書き終えた。
かつてギリシャの医師で歴史家のクテシアスは、著書『インド誌』にて、初めてヨーロッパにユニコーンを伝えた。
紀元前四世紀から現代の今へ、彼の伝聞は届いている。
ユニコーン。
おまえの角は……今も、世にも稀なる宝物だ。
どこへ隠れても、何度その名を変えても、見つけ出してみせる。
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