55 シェファーの嘘

 お母さんに嘘をついている。





 嘘……じゃない。言ってないだけ。





「レインくんのお父さん、若いのにしっかりしてらして、偉いわねぇ」

 お母さんは、友だちのレインが王宮に住んでいることを知らない。保護者が王様ってことも。

「いーい? シェファー。ちゃんとするのよ」

 手土産を買うよう指定されたお店は、誕生日とかしか行かないような高級洋菓子店。

「いってきます」





 誕生日…………仕事帰りのお父さんと来たことあったっけ。ホールケーキを注文しようって。お母さんの誕生日に、お父さんと選んだ。


 お店でケーキを選んでいた時、僕もホールケーキを見ていたから、レインがオペラの真っ暗闇みたいなホールケーキを見ていたの、知ってるんだ。


 誕生日用のホールケーキ、中央には少しの余白がある。名前を入れた、メッセージプレートを載せる為の。あのチョコレートプレートを食べる、幸せな瞬間はもう、来ないような気がするんだ。どうしてだろうね? 誕生日はこれから先、何度でもやってくるのに。









 レインの部屋。


 ゲームに夢中だったけど、手が冷たくなって、毛布一枚では凍えそうだった。伸びをしても、瞬間血の通った指先は、温かくなる前に凍える。

「電気毛布あるよ」

 レインはそう言って、足元の毛布を広げてスイッチを入れた。

「……いいかも」


「寒いよ、レイン」

 僕は毛布の中からコントローラーを置いて、レインを引っ張る。レインも潜ってくる。


「レイン。僕、ここ好きだ」

「そう。又来なよ」

 レインはただ言っただけかもしれない。

「……うん」

 暖かい毛布の中は、すぐ息苦しくなって、ずっとは潜って居られない。





 小学生の友だちって、いつまで友だち?


 僕は、レインと友だちでいたい。できれば…………ずっと。これも言わない。その方が、まだ、望みがあるような、そんな感じでいられるでしょ?


 王様の騎士っていうのは、いいと思ってる。だって、学校を卒業しても離れても、レイン、僕を忘れずにいてくれるでしょ?

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