54 ヒルコの週末

 金曜日。


 仕事が終わると、一週間が終わった気がする。バックヤードから従業員用通路を抜けて、本館のエレベーターを乗り継いで、屋根裏へ向かう。夜食は厨房の余りもの。落ち着いたら着替えとタオルを用意して、仮眠室のシャワーを浴びに行く。眠るのは日付を越えて真夜中。そんな時間。


 私が働いているレストラン皿千サラセンのホールと厨房。ホールでは給仕。厨房では人手不足の時に呼ばれて、できることを手伝っている。皿洗いとかグリストラップの掃除とか、言われたことを何でもね。

 私は……業務用洗剤にも負けない皮膚をしているから、掃除は割と向いている。パートタイマーの女性がハンドクリームを貸してくれたことがあったけど、そのようなものは必要ないんだ。









 土曜日。


 王宮へ来た。王様の部屋で皿千サラセンの話をした。仕事の様子を訊かれたから。


「ヒルコは、働き者の龍なんだ」


 王様には『私は龍です』と告げてある。(絶対信じてないみたいだけど)


「龍じゃなかったら、どうやって王宮の地下迷宮へ入って来られたと思います?」

「泳いで来られたのですよねぇ」

「ナイアス川もね」


 ニコニコしながら何も信じてない。王様って…………いや、人間って…………


「ところで、これ」

 王様に初めて会った時、借りた服と履き物。

「あなたのものにしていいですよ」

「お金、払いますから、同じもの……欲しいです」

 王様が上着に着ていたであろう、白い服。私は王宮へ来る時、上着として必ず着てくる。

「お金? 金銭を絡めると色々面倒になるので、要りません」

「…………」

 そういうものなの? でも、こういうのが欲しい。

「服なら、騎士班の備品として計上しましょう」

「騎士班……王様は、私に仕事の服を着せたいのですか?」

「仕事の服! いいですね」

 言うんじゃなかった。王様は気に入ったみたい。王様の部屋で、肘付き椅子にもたれれかかる。はぁ。

「週末も……働くのか」

 王様は手を伸ばして、私の頭に触れた。撫でられている。


 人間で……私の頭に、私の髪に触ったのは、王様一人だ。少しだけ、海の神を思い出す。

「ヒルコ」

 この……人間の……王様に仕えるとは、こういうことなのだろう。





 私は、国主の力になるのだ。

 それについては、色々面倒なことが、間に挟まっているのかもしれない。進むべき道筋とは、荒れているものさ。未踏なんだもの。

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