53 レインの企み

 ヒプノス島に居る。





 学校がない島でも、僕は朝七時に起きる。身支度を整えて、テーブルに着く。ここはオニキスの家、ここは僕の席。


「おはよう、レイン。トースト食べて。私は食べる時間ないから」

 コーヒーの匂い。オニキスは、八時前には家を出て行く。

「今日はちょっと早く出るから、戸締まりを頼んだよ」

「いってらっしゃい、オニキス」

 車のエンジン音。いつもなら歩いて行くのに。オニキスが車で仕事へ行くのは、雨の日とか急ぎの時。


 テーブルには、ミルクコーヒーのマグカップと空のお皿。トーストはまだトースターの中。オニキスはコーヒーだけ飲んだみたい。テレビはローカルニュース。鞄には夜準備した教科書とノート、描きかけの画用紙、水彩絵の具のセットと筆洗いのミニバケツ。


 僕はトーストを一枚はマーガリン、もう一枚は蜂蜜がけにして食べた。天気予報を見て、テレビを消す。僕もそろそろ出かけよう。


 オニキスの家は物理キーだけど、玄関を締めると、全ての戸締まりができるようになっている。これが今のオートロック。僕は鍵にチェーンを通して、首から下げるようにしている。


 ハルが居る集会所へ行かなくっちゃ。





 そんな夢。





 夢から覚めた時の、今さっきまでの感覚、全部が夢だったって、わかる感じ…………僕は嫌い。現実より夢の方が良くて、ガッカリすることがほとんどだから。





 でも……今日はそうでもない。オニキスと居たヒプノス島の夢の方が、いいはずなのにね。





 今何時? 八時……十分、寝過ぎだ。起きよう。


 ベッドを降りても、シェファーとヒルコは眠っている。


 よし。今朝は僕がコーヒーを淹れて、トーストを焼こう。ヒルコもシェファーも、準備ができたら起こしに来よう。





 王宮の厨房は、公的なイベントや来客がないと、朝は大がかりに稼働していない。僕は食堂に置かれた朝食ワゴンを見て、コーヒーが入った保温ポットとカップを確認すると、部屋へ戻る。


「おはよう、シェファー。おはよう、ヒルコ。食堂へ来て」


 食堂へ先に行くと、王様が居た。

「おはよう、レイン」

「おはようございます。僕、コーヒーを入れます」

「ありがとう」





 食堂に、王様と起きてきたヒルコとシェファー、そして僕。広くてよそよそしい綺麗な食堂も、四人居ると違う感じ。





 今日みたいな朝が、僕の『日常』ならいいのに。どうしたら、そうなる? 何をすれば、手に入れられる?


 オニキスは、誰も誰かのものにはならないって言ってた。それはそう。オニキスもそうだし、僕もそう。





 でも…………考えてみよう。きっと何かあるはず。きっとね。見つけてみせるよ。





 欲しいものを手に入れる方法。

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