37 少年騎士班(仮)

 僕は王様の騎士になろうと思って…………いや、なるんだ。もう、心に決めた。





 レインはオニキスにそのことを告げた。オニキスは良いとも悪いとも、特になし。もう少し驚きのリアクションを想定していたので、僕は意外だった。


「賛成とか反対とか、何かしら、ないの??」

 オニキスはこの話をまだ続けるのかという顔をしている。ような気がする。

「王様に……レインをとられた気分」

「えぇ」

 オニキスは……盛大に面白くなかったのだ。





 僕はオニキスから離れることで、オニキスについて知ったことが、いくつもある。

 王様はとても良い比較対象。パッと見、王様とオニキスはとてもよく似ている。僕からすれば、どちらも大人の男の人で……

 王様は独りになることがほとんどない。いつも護衛の人や警備員、誰かしらお付きの人が居る。その所為かな……ずっと正しい行い、公的な顔をしている印象。

 オニキスは逆。仕事の時間はよく知らないけど、基本独りで居るのが普通。何でも好きにしていて、僕にもマイペースなところを見せてくれる。





「王様はね……えぇと、傍に居る人が、欲しいんだと思う」

「私だってレインに傍に居てほしい」

 間髪入れずに言われたので、レインは笑ってしまった。

「いつも護衛の人……とかじゃなくて、それで『騎士』という役を思い付いたんじゃないかな……て思うの」

「役……ね。良い発明だ。でもインテグレイティアなら『武士』や『家老』でもよかったはずだ」

 今度は僕が笑った。

「王様と武士? 和洋折衷にも程がない?」

「冗談。わかるよ。何でもよかったんだ、きっと。『騎士』も王様と同じ、便宜上つけられた只の名前に過ぎない」

 オニキスはもう笑ってない。

「王様は少し可哀相だ。大変な仕事をしているのに、ほとんど人身御供のようで。だから」

「だから?」

 オニキスは僕を見ている。

「少しくらい、レインを貸してあげてもいい」

「ふふ」

「なぁに?」

「ほんとに僕より年上なの? オニキスくん」

「言ったな! レイン」

 オニキスと居ると、ヒプノス島に居るみたい。ここがアーバンの王宮だなんて、忘れてしまう。









「それでは、班長を決めたいと思います」


 小学校の教室ではない。僕たちは、アーバンの王宮に居る。僕たちとは、僕……炭洲すみすレインと照井戸てるいどシェファー、夜会に居たおにいさん……佐藤ヒルコ、そして王様の四名だ。


「挙手の結果、佐藤ヒルコが班長でいいですか? 意見のある人は挙手をして言ってください」

 教室で行う『帰りの会』と変わらない。こんな進行でほんとに大丈夫なのだろうか……

「なさそうだね。続けて? レイン」

 王様が僕に促す。

「はい。班長から一言お願いします」

 ヒルコは立ち上がって見回した。

「えぇと……がんばります」

「頑張ってね、ヒルコ班長」

 王様がフォローを入れる。拍手。


 このようにして、騎士班(仮)の班長は決まった。





 騎士『班』…………騎士団じゃないのかって? そうだよね。僕も騎士団だと思ってた。でもね……


「『団』って感じじゃないよね?君たち。『班』でいいんじゃない? あ、まだ枠が一名空いてるから、(仮)ね。揃ったら(仮)取っていいから」


 班長よりエライ王様からのコメントで、僕たちは『騎士班(仮)』となった訳である。





「佐藤班長」

 ヒルコは呼ばれて、レインを見下ろす。

「ヒルコでいいよ」

「ヒルコ班長」

「班長もなし。秘密ね」

「ヒルコ……おにいさん」

 ヒルコが笑ってる。しゃがんでレインを見る。

「おにいさん、要らない。呼び捨てでどうぞ」

「ヒルコ……」

「はい」

「あの、僕と、友だちに」

「レイ〜ン」

 シェファーが後ろからレインを突付く。

「ヒルコ、僕も!」

 小学生男子に挟まれて困惑する。

「私もよろしく。あ、そうだ、えっ……とね」

 ヒルコは手持ちの袋から何やら取り出す。

「茶碗蒸し、食べる? おやつに食べようよ」

「「食べる〜」」





 ヒルコは王宮の厨房を借りて、茶碗蒸しを温めた。


「熱々だから、気を付けてね」


「は〜い」

「いただきます」


「王様の分は厨房の人に渡しておいた。おやつを食べる時間もないとか、気の毒だよね」

 王宮の食堂は静まり返っている。

銀杏ぎんなん、入ってる」

「スワスティカには銀杏イチョウの木、いっぱいあるよね」

「これは……銀杏ぎんなん拾いに行って、つくった茶碗蒸しなんだ」

 ヒルコが二人に言った。

「又、週末に行くけど……二人ともいっしょに」

「「行く!」」





 画して記念すべき騎士班(仮)最初の行動は、銀杏拾いに決定した。

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