34 真昼の星

 昼休み。

 レインは慌てて給食を食べていた。クラスで何番目かに早く食べ終わると、トレイを片付けて、一目散に教室を出て行った。

 同じA組のイハトは、そんな珍しい光景を見ていた。





 レインは先生が居ないのを確認して、廊下を走って行った。教室がある建物とは別棟の、特別教室がある方へ。





 廊下も別棟も、誰も居ない。お昼の校内放送が響いているだけ。


 レインは放送室のドアを開ける。奥にもう一つ部屋があり、ガラスの向こうのブースで、放送委員が原稿に目を落として放送を続けている。


「(シェファー!)」

 ガラス越しに呼びかける。

「……?!…………」

 気付いた、気付いた。


 放送が選曲した音楽になって、シェファーがブースから出て来た。

「レイン…………何? どうしたの??」

「シェファーが放送してるのわかったから来た!」

「放送委員って言ったっけ?……声でわかったの?」

 レインが笑った。

「うん。放送してる間に来ようと思って、給食すっごい早く食べてきた」

 音楽がもうすぐ終わる。シェファーは又ブースへ戻った。お昼の放送を終わります。そう言ってシェファーは、マイクオフにして出て来た。昼休みはまだ充分にある。


「シェファー、ここで食べてるんだ」

 給食のトレイを見て、レインは言った。

「プリン、食べる? レイン」

 手を付けてないプリンを渡す。

「いいの?」

「うん」

「ありがと、シェファー」

 パイプ椅子を出してきて、二人で座る。





 シェファーの孤城に、初めて人が来た。

 シェファーの日常に、登場人物が増えた。あの水曜日からだ。王様が現れて、…………変わり始めてる。


「レインは…………何しに来たの?」


 レインの目的が自分だとは、ここまできても思い至らないシェファーであった。


「大事なことを言ってなかったから」

「大事なこと? ……何かな?」

 レインは黙ってしまった。

「レイン?」

「僕と……友だちに……なってください」

 思ってもみない言葉が出てきた。

「友だち?…………僕と? 僕でいいの?」

 増えた登場人物は、通り過ぎて行ってしまう人ではなかった。

「シェファーと友だちになりたい」

 レインは…………同じ境遇を共にするものが欲しいのかも…………シェファーが思い至ることは、それだけだった。

「あの場に呼ばれた人だから?」

 シェファーは偶然だと、今でも思っていた。王様に声をかけられたのは『たまたま』で、王様に呼ばれたのも『偶然』で。

「そうだよ」

 シェファーは顔を背けてしまった。

「僕は……何かの間違いだと思」

「どうして? シェファーが選ばれて、シェファーが呼ばれたんでしょ?あの場に呼ばれた人は、シェファーじゃない」

 レインは退かない。

「僕といっしょに、王様の騎士になろうよ」

「……勧誘……したいから?」

「先に友だちになりたい。大事なこと」

 ようやくシェファーは、レインから向けられる熱量が、他の誰でもない自分宛てであることを知る。


 シェファーは恐る恐る右手を差し出した。レインにはそれで充分だった。





「帰り、いっしょに帰ろう?シェファー。ね?」

「いい……よ」

「やったぁ! じゃ、僕がF組に行くから待ってて」





 予鈴。

 レインと途中までいっしょに教室へ戻った。











 シェファーは5時間目の授業中、友だちについて反芻し過ぎて、ゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。

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