31 きらきら星

 王宮の夜会。

 レインとシェファーは、王様にくっついているのが飽きたので、軽食が並ぶテーブル席へ来た。


「これ、食べてもいいかなぁ」

 レインが、彩り野菜をゼリー寄せしたテリーヌとパテの皿に魅了されていた。フォーク片手に振り向くと……

「いいわよ」

「??」

 いっしょに連れて来られたシェファーに訊いたつもりが、マーメイドプリンセスみたいな女の人がにこにこしている……

「レイン!」

 シェファーがレインの手を引っ張って、その場を離れた。

「知らない人と話しちゃ駄目って、王様言ってたでしょ?」

「…………はぁい」

 シェファーはなんだかレインがふわふわして見えて、目を離しちゃいけなかったんだと思った。


 あんな知らない人と口きいて……全く!


 シェファーは誰にも目につかないよう見計らって、テーブルクロスを捲って二人で隠れる。


「シェファー、ごめんね」

「僕、王様に、悪い子だって思われたくない」

 レインは自分より真面目そうなシェファーに好感を持ち始めていた。

「レイン、これあげる。いっしょに来たんだから、僕に何でも言って」

 シェファーはボンボンショコラとキャラメリゼ・ナッツをレインに渡した。

「ありがと!シェファー。ねぇねぇ、僕、ジュース欲しい。シェファーにも取って来てあげ」

「待て待て待て待て、僕が、行く!」

「えぇ」

「レイン、お酒のグラス取って来そうなんだもん」

「うふふ、そんなの間違えないよ〜」

 絶対綺麗だからとか言ってお酒の選ぶよレイン。王様に怒られる! レインにじっとしててと言って、テーブル下から抜け出そうとしたところを何かに捕まれた。


 テーブル下から引きずり出されて、瞬間的に王様に見つかったのかと、シェファーは縮み上がる。ギュッと閉じた目を恐る恐る開けて、その手はヒルコのものだった。


「何が欲しいの?」

 あれ? 知らないおにいさん。

「……ジュース……二つ」

「何のジュースがいい?」

「苺ソーダ!」

 テーブル下から声がした。も〜、レイン、おにいさん笑ってるよ……

「君は?」

「ピンク・グァバ」

「持って来てあげる」





 ヒルコは色味の異なるピンク色のグラスを二つ持って、戻って来た。レインにはストロベリー・ソーダ、シェファーにはピンク・グァバジュースを。


「「ありがとうございます」」


 二人は目を輝かせてグラスを受け取る。飲み物までキラキラしていて、レインもシェファーも嬉しくなってしまった。


「君たちは王様に仕えているの?」

「はい!」

 勢いよく答えたレインを、シェファーは見る。

「私も王様に仕えている」

 シェファーはヒルコを見る。

「え、あの、仕えるって…………僕も??」

「シェファー!」

「はい?」

「僕といっしょに、王様の騎士になろう!」

 レインはシェファーに向かって言った。


 いっしょに? 王様の、騎士に??


「強くて、かっこいいよ!」

「僕に、言ってる、の?レイン」

「そうだよ。さっき何でも言ってって」

「何でも……って」

「……シェファー」

 レインは真っ直ぐシェファーを見つめて、シェファーの名前を呼ぶ。

「……レイン」

「私も、なりたい」

「おにいさんもなりたいの?」

「うん」

 ヒルコも二人の話を聴いていて、そう思った。国主の力となる方法が、思わぬ場面で少し知れた気がしたのだ。


「騎士って……どうすれば、なれるの?」

 シェファーは口にした。

「わかんない」

 レインは嬉しそうに言い切った。

「レイ〜〜ン?!……わからないものにどうやってなれるの??」

「王様に、訊いてみようか」

 クスクス笑いながらヒルコは言った。





 王様は、少し離れたところで笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る