19 海水色

 オニキスがそれを見つけるのに大して時間はかからなかった。


「レイン、友だちができた?」

「うん」

「女の子?」

「よくわかったね!そうだよ」

 レインの左手首につけられたブレスレット。

「あぁ!これか。集会所に居た子。灯台で会った子なんだ」

「その子の名前は?」

響希野ひびきのハル」

「響希野……私はその子のお父さんを知ってるな」

「お父さん……お医者さん?」

「そうだね」


 レインはにこにこしながら、右手の指先で青と水色ビーズのブレスレットをなぞっている。


「レインの目の色みたいだね」

「うん!ハルも同じこと言ってた」

 名前で呼んでる……


 レインは私と同じ、黒い髪に青い目をしている。いや、私よりは明るく淡い、水色か……


「黒髪に青い目は女の子にモテるんだって。ハルが言ってた。オニキスはモテる?」

「どうかな?そもそも元の外見より、この黒い服の印象の方が強いみたいで、初見は大抵いい顔されない」

 レインが意外そうな顔をしている。

「僕、オニキス大好きだよ!黒い服、かっこいいし」

 真正面から言われると、さすがに少し恥ずかしい……。屈託のないレインからだと尚更だ。





 インテグレイティアには、黒髪に茶色の目の人が圧倒的に多い。次点で、茶色の目に茶髪や淡い色合いの髪の人。多分少数なのが、黒髪に青、緑、金などのカラフルな目の人。最も少ないのが、髪も目も明るく淡い色の人。


 どの色味の人がモテるか?何故か、インテグレイティア国内では、黒髪に青い目の人がモテるとよく言われる。

 稀少価値的な意味で好まれている要素もあるが、パッと見のわかりやすい東西の融合感、溶け合っている感じを覚えるからなのかもしれない。


 造形としては、既に昔の日本人より今のインテグレイティア人の方が、東西の混合度合いは確実に高くなっている。





 ルッキズムがよろしくないとする風潮はあれど、人は生来から視覚で感じる美しさを好む傾向を持ち合わせている。


 わかりやすい美しさは、生物学的に繁殖実績の結果でもあるから、人も本能的に美醜判断をしてしまうのだ。









 成長したヒルコは、美しい造形をしていた。


 不具の子として生まれ落ちた時は、蛇のようだ、蛞蝓なめくじのようだ、非道い言われようであった。


 ナイアス川に捨てられ流された時は、川の精からも誰にも生命を奪われることはなかった。櫂のない粗末な小舟は、海へ向かうしかない。川の精は見ていた。ヒルコの、透き通った海水と同じ、淡い淡い水色の目を。


 漂着した時は、常世の神にだけ、ヒルコの本当の姿が見えていた。









 マリアナ山の洞窟で、ヒルコは昏々と眠っている。


 美しいだけの、孤独な龍。

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