10 最果ての海

 初めて見る海岸は閑散としていた。


 僕はてっきり、誰もいない、只々砂浜が拡がっている風景を思い描いていて……でも実際は、そんな観光地的ロマンチックな自然風景など、幻想だった。


 人と物の行き来するところが無人な訳はなく、港湾事務所に、物流鉄道の駅……貿易港付近は、普通に臨海工業地帯として栄えていた。


 刑吏一行はフェリー乗り場に近い詰め所へ立ち寄り、物資を下ろしてから、数台のオフロード車ごとヒプノス島行きフェリーに乗船した。

 刑吏、死刑囚、一般人……同じ船に乗り合わせて行くことに、僕は驚いた。


 オニキスはバッテラ、僕は箱入りのインスタントバーガーを買って、大きなフェリーは出港した。死刑囚の監視役……ではなく、僕と居るオニキス……デッキのベンチで押し寿司を食べている。僕はバーガーを。


「ヒプノス島……って、人が少ない村みたいなとこ、なんだよね?」

「うん」

「アーバンを出てから、どれも想像と違ってたよ」

「レインはどんな想像してたの?」


 荒野と砂漠はさすがに人が居なかったけど、オアシスは近代的だったし、刑吏の隊列も車何台もあるし、海に着いたら……


「最果ての海って聞いてたから、もっとこう、どこまでも砂浜で、なんにもないかと」

 オニキスが笑ってる。

「整備した人工海岸の砂浜もあるけど……貿易港だよね」

「僕は、おとぎ話に出てくるような海を想像してたみたい」

「フフ。それでもここら辺は、住宅地区ではないから、陽が暮れると様相が変わって見えるよ」

 おとぎ話よりゴーストタウンのイメージの方が近いかもしれない。オニキスは言った。

「まぁ、夜には私とヒプノス島に居るだろうから、見られないけど」


 アーバンから遠く離れても、僕はホームシックと無縁だった。元々日常的に長距離移動の通学をしていたからか、感傷的な気持ちにはならないみたい。ヒプノス島へ行ったら、僕はずっと島に居るのかな…………

 いつか、退屈したり、するのかな…………


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