6 サンド・オセアノー

 砂漠に居る。大して暑くはない。少しの時間は。


 陽が高くなってくると、外気温は信じられないほど上がる。


 最初の給水地オアシスには井戸が何基もあって、電子レンジくらいあるモバイルバッテリーを繋ぐと、汲み上げから濾過装置ろかそうちまでが稼働する。

 バッテリーで濾過装置を起動することで、地下施設への出入口が認証コード受付状態になる。オアシスは緊急避難施設の役割も兼ねていて、超高圧変電所から配電用変電所を経て、常時電力供給がある。バッテリーが必要なのは、防犯上のテロ対策だ。


 物流鉄道の無人駅が、オアシスとアクセスしやすい位置に設置されていて、物資の搬入と設備巡回はそれなりの頻度で行われている。





「ヒプノス島へ死刑囚を連行している途中、もし病気になったり死亡しても、物流鉄道に乗せてインテグレイティアへ送れるから大丈夫なんだ」


 何が、どう、大丈夫なのかよくわからないけど……要するに、手に負えなくなったら電車でインテグレイティアへ送り返してくれるらしい。


 オニキスは、無人のオアシスで水や電気がどうして使えるのか、発電所と変電所の話をしてくれたけど……僕は、インテグレイティアが何でタービンを回しているのか、聴く前に眠ってしまった。





 半地下フロアには、フロストガラスの窓があって、今は冷房が効いている。窓と言っても、外に通じた窓じゃなくて建物内のものだ。閉鎖された圧迫感緩和の為かもしれない。


 サラセンホテルほどではないが、オアシスはまあまあ快適だ。砂漠に居ると、楽園のよう。冷たい水と空調の有り難みを思い知る。





 荒野と砂漠を移動中、昼夜逆転の生活に変わった。夕方から夜間にかけて、黒曜馬の隊列とオフロード車の並走移動。昼間は停止して、休息。


 オフロード車は、死刑囚数名と物資の運搬に、黒曜馬は交代制で速度の保持に努めていた。


 車の運転手はオニキスで、僕は助手席に居る。夕方はオニキスが運転しているけど、夜間は自動運転システムで走行している。


 寝てても車は走るから、オニキスはすることがない。もっとすることがない僕は、オニキスに訊いた。


「ヒプノス島って、どんなところ?」

「人が少ない村を想像すれば近いかな」


 やっぱり、全然悪くないな……僕が居たキャンプ地なんて、少ないどころか、僕とお母さんとお父さんの三人だ。


「学校ないって……島に子どもはいないの?」

「いるよ。学校はないけど、集会所で教室のようなものはある」

「僕もそこへ行くの?」

「いや、レインは……」

「僕は、何?」

 オニキスの言葉が途切れた。


「勉強は私が責任を持って教える。だから……」

 なんだか歯切れが悪い。

 オニキスが手をのばして、僕の頭を撫でた。


「レインは、私の傍に居て」


 お母さんが……お父さんが、僕の頭を撫でることは、いくらでもあった。いっしょに居るのが当たり前で、言われたことない言葉を、オニキスは僕に言う。オニキスの言葉で、僕はお母さんとお父さんが言葉にしなかったことを、今知ったんだ。

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