誰かの視点 一

 ドンドンっ、ドンドンっ!


 こんな時間に誰だ? 

 もう夜になっているのに関わらず、わざわざ訪ねてくるなんて何かあったのか? 


 ……はぁ、面倒ごとは勘弁してくれ。俺はただ、楽に生きたいだけなんだ。

 農奴の奴らよりも、上の立場だからまだマシな方だが、もし変なことを起こした奴がいたら、報告を聞かなきゃいけない立場でもある。


 もし嫌な報告だったら、それを街や都市にいる役人にわざわざ報告しなきゃいけないと思うと今から先が思いやられる。

 そもそも俺じゃなくて、村の役人の方に報告しろよなぁ……。

 …そうだ、追い返そう。それでアイツの方に報告しろって言えば、面倒ごとに巻き込まれないじゃないか。


 俺は良い案が思い浮かんだと思いつつ、そのまま突き返そうとベッドから起き上がり、蝋燭に小さな火を灯す。

 寝ぼけながらフラフラと歩き、戸に手を掛け…開いた瞬間に驚愕する。


「お前……こんなところで何してんだ?」


 …こいつが、ここにわざわざ訪ねに来る理由が分からない。

 どういうことだ? 俺に訪ねるよりも、よっぽど良い方法があるだろう。

 こいつは、何を考えてここに来たんだ?


「報告があり参りました。この国に混乱をもたらす者が現れました。その者たちの名は、カイ、ハイク、イレーネです」


 その報告を聞いた途端、俺は気分を良くした。


「おい、詳しく聞かせろ」


 そう言ってこいつを部屋に招き入れた。




 ──※──※──※──




 一応こいつにも席を勧めて、先に俺が席に着いたことで、安心してこいつも勧められた席に着く。


「さぁて、どういうことか教えて貰おう」


「はっ! 奴らの帰り道を尾行し、奴らの会話を盗み聞きしましたところ、奴らには帝国からの逃亡の危険性があり、及び他の国に羨望の眼差しを向けております。奴らの思想がこの村全域に広がれば、王都からの精鋭部隊により、この地域一帯が火の海となることでしょう。そうなる前に、皇帝陛下の御前に、この一報を届け出ることで、事前に反乱の思想の芽を摘むことが出来るでしょう」


「…ほうほう」


 こいつの報告は、中々に興味深いものだった。他国に羨望の眼差しを向けてるって? 

 ひょっとすりゃあ、この一報を届け出ることで、俺の立場もさらにいい立場に昇格させて貰えるんじゃねぇか…。

 そして何より、あの気に食わねぇ子供ガキ共に罰を加えることが出来る。


 ずっと気に食わなかったッ! 


 アイツらは、自分の優秀さを差し控えるなんてことは、全く考えちゃいない。

 俺よりもあんな小さな子供共が……将来、俺よりも上の立場で偉そうな態度で命令してくることを想像しただけで、今からでもはらわたが煮えくり返るッ!


 俺はこんなしけた村で一生を過ごすつもりはない。

 もっと俺に相応しい地位に就きたい。

 ……これは渡りに船だ。この一報を一刻も早く知らせなければ。


 ただ、こいつの事も気になる。

 …なぜ、俺にこのことを報告した?


 こいつもアイツら程ではないが気に食わない。

 だが、こいつは俺に良い情報をくれた。

 だから今は、こいつの評価は少し上向いている。


 ……それでも、これだけは確認したい。


「なぁ、?」


 こいつは、ゆっくりと顔を上げて、俺の顔を見据えて口を開いた。


「その方が…私もやり易かったからです」


 …やり易いねぇ……なるほど。癇に触る言い方だが、言われてみればそうだな。

 その答えに満足した俺は、こいつを帰らせてすぐに書状をしたためて、村の一人のの兵士に緊急の書状として預けて、街に向けて早馬を走らせた。

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