戦隊ヒーローと人参と

野崎かなた

戦隊ヒーローと人参と

些細なようでそれでいて確かな鬱屈とした思いが僕を締め上げる。言うなれば、一本の髪の毛の混入は提供された料理への食欲を十分に失せさせる効果があるように。もしくは、真っ白な絵の具に混ざった黒い絵の具が取返しのつかない灰色を生んでしまうように。少しの、ほんの少しであるはずの失望や落胆が僕を曇らせている。小さく大きな段差に躓き続け、自分の理想を裏切り続けることへの苛立ちが心をじりじりすり潰す。


どうしてこうなったのだろうか。そんなことを考えても、ただただ後ろ向きな方向へ引っ張られていく自分を認めているみたいで悔しい。悔しいはずだ。でも、過去を振り返りなんであれ原因を見つけ出し、それを改善すれば救われるだと思いたい。


僕は僕を甘やかせすぎたのだろうか?心のどこかで何十億いる人類のなかで僕こそは僕にとって崇高な何かを成し遂げられると、そんな幻想を捨てきれずにいたのだろうか?小学生であっても将来自分が戦隊ヒーローになれないことに気付いているというのに。それとも自分が平凡だと、平凡以下だと認めるのが嫌で避け続けてきたのだろうか?人参嫌いの小学生がカレーが食べるときにそれをよけておくように。どちらにしろ、人は戦隊ヒーローがいないことに気付くし、大半の人はたとえ嫌いなままであっても人参が食べられるようになる。


ならば、僕は恨むべきだろうか?戦隊ヒーローは俳優が演じているだけだと教えてくれなかった環境を。人参もしっかり食べなさいと叱ってくれなかった周囲を。


そうじゃない。そうじゃないはずだ。


今まで僕は気付く機会に何千何百と接してきたはずだ。それでも、戦隊ヒーローや人参に比べて、自分の愚かさってやつは気付きにくいから、無視しやすいからって逃げてきたんだ。そうだろう。


今こんなにも苦しいのはそろそろ逃げるのに限界が来たっていうサインだろう。目の前は断崖絶壁でもう逃げることはできないてことだろう。


ここから先には勇気が必要だ。



勇気を出して正しく振り返るか、


勇気を出して正しくもう一歩進むか。

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