第12話 反省するユリナさん

さて、その日帰り温泉はなかなか良い所でした。ユリナさんの気に入ったのは、シャワーのお湯が止まらないところです。


日帰り湯ですと、ボタンを押して数秒でお湯が止まってしまうところもありますね。シャワーのお湯の止まらない施設はポイントが高いです。


「ここは、シャワーのお湯が止まらないのがいいね♬」


ユリナさんはマリちゃんに声をかけました。


「そうだね。」


マリちゃんも同感のようです。


お風呂へ来ると、先ほどのパンツ事件についてはしばし脇に置いて置ける気がしました。でもやはり、ユリナさんの頭にはすぐにパンツの件がよぎります。


ここは備え付けのリンスインシャンプーとボディーソープもありましたが。


ああ・・・マイシャンプーとかマイコンディショナーとか、そんなんは忘れても、マリちゃんのパンツは忘れるべきではなかったのに・・・せめて、忘れたのがわたしのパンツだったなら・・・マリちゃんのパンツは忘れずに、おかあさんのパンツを忘れたならまだ良かったのに・・・


「マリちゃん、おかあさんのパンツはあるけどそれじゃイヤだよねぇ~・・・」


親子とはいえ、それはダメだろうとユリナさんもわかっていました。新品のおろしたてパンツならギリギリいけたかもですが、まあ基本的にいろいろダメですね。


ユリナさん、マリちゃんがあまりに不憫で、あることを決意しました。


マリちゃんにパンツがないなんて可哀そうすぎるよ・・・なのに自分だけが、のうのうとパンツを履いていられるわけないよね。そうよ!せめて私もパンツは履かないことにしよう。マリちゃんだけにそんな思いはさせないからね・・・!!


でも今は言うまいと思いました。お風呂に入っている間ぐらい、パンツのことは忘れていたい・・・それはマリちゃんだって同じはず・・・そんな思いでした。(さっき蒸し返してましたけど)


体や髪を洗った後、親子は大浴場へ。


「この温泉はツルツルしていいね~♬」


努めて明るく振舞うユリナさん。いえ、別に努めてもいませんね、温泉は楽しいですからね。


「外の露天風呂にも行こうね。ピンク色だね~」


内湯で温まった後は露天風呂へ。ピンク色のジャグジー風呂でした。他に入っている人はいなくて、マリちゃんとユリナさんで独占できました。


「わ~~、すごい、ボコボコだね~」


ジャグジー風呂、勢いよく泡が出ています。


「わ~~、マッサージ効果がありそうだね~」


ユリナさんとマリちゃんは湯船の中央スペースの、泡がブックブクのところへ陣取りましたが。


泡の出る勢いが強すぎて、くっ、くっ・・・と頑張っていないと流されそうです。なんか疲れますね・・・


そのうちユリナさんは端へ寄って泡の出ないところへ移動しました。


「うーん、こっちの方が落ち着いて入れるね~・・・」


もうひとつの、普通の露天風呂にも入り・・・


十分温まったので、もうマリちゃんはお風呂から上がるようです。ユリナさんも上がることにしました。


脱衣所へ戻ると、パンツのない現実がマリちゃんにのしかかります。なんて可哀そうなマリちゃんでしょうか・・・!!


「マリちゃん、マリちゃんだけパンツがなかったら可哀そうだから、おかあさんもパンツ履かないからね。」


ユリナさんの申し出に、マリちゃんは困ったように笑いました。


「え~~、いいよ・・・笑」


そこは遠慮するマリちゃん・・・まあそうですね。ユリナさんがパンツを履かないからと言って、マリちゃんのパンツが現れるわけではないのです・・・


「ううん、マリちゃんはパンツがないのに、おかあさんだけパンツを履くなんてできないよ。おかあさんも履かない!!」


「いいよ、いいよ・・・」


ユリナさんの主張に遠慮する優しいマリちゃんでしたが、ユリナさんはささっとパンツなしでズボンを履きました。


なんかスカスカするけど、マリちゃんだけにそんな思いはさせないからね・・・


マリちゃんのパンツの足しにはならないものの、ユリナさんとしては我が身の失敗を悔やむ気持ちのあらわれでした。


さてその後は、居酒屋さん風のお食事処で地方の名物などを食べて、おいしい夕食でした。パンツをはいていなくても、良いお食事のひとときでした。


食事の後は休憩コーナーでマンガも読みました。日帰り温泉を満喫です。パンツをはいていなくても、マンガを楽しむことはできます。一家は夜遅くまでマンガを読み、帰路につき・・・


お家に到着し、一番はじめにユリナさんがしたのはパンツをはくことでした。やっぱりパンツをはいていないと落ち着かなかったのですね。


ユリナさん、マリちゃんより先にパンツを履いたのは悪かったかなぁという気もしましたが、少し後に、マリちゃんもパンツを履いて無事にノーパンタイムは終了しました。


なにを忘れようとも、パンツだけは忘れずにおこうと心に誓ったユリナさんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る