第7話 123クッキング

「この前、会社の行事で123クッキング行ってさ、その時もう1回無料で行けるチケットもらってね、行ってきたんだけどね。」


ある日の夕食後、シンちゃんがユリナさんに言いました。


「ふーん、そうなの・・・」


123クッキング行ったのは知ってるけど・・・それで、24回コースを契約したのも知ってますけど。と思いながらユリナさんは返事をしました。


「パン作り、けっこう楽しくてさ~・・・」


うんうん、同じグループにかわいいお姉さんとか、キレイな先生でもいた?


心の中でユリナさんは聞き返しました。


「先生は若い男の人でさ、いや~知らない人と一緒にやるの、なかなか大変でさ~」


そっか、若い男子・・・ふーん、そっちなんだ・・・?


「でも知らない人と話さなきゃいけない環境って大事かなと思ったんだよね。家と会社の往復だけじゃ、仕事以外の話できない人になっちゃうと思って・・・」


シンちゃんなりに、なんらかの意図があるみたいでしたが・・・?


「それで、会社もすぐ近くだし、時々会社帰りにパンのコース習いに行こうかな~と思ってて・・・」


そうシンちゃんは言いましたけど、思ってるっていうか、契約済みですよね?24回コース、約12万円、もうカード切っちゃってますよね?


「しかもね、そこの123クッキング、ワインの飲み放題もあって飲めちゃうんだよね。別の教室だとワインバーないんだけど、会社に近い方はあるからさ~」


「そうなんだ~、ワイン飲めるんだ・・・で、パンのコース・・・?」


パン・・・なんでパン・・・?そんな菓子パンぽいのじゃ食事にならんでしょ・・・?


シンちゃんの見せてくれた123クッキングの案内を見ながら、ユリナさんは突っ込みたい気持ちでいっぱいでした。


同じレッスン料を払うなら、なぜもっとお食事っぽいコースで習わないのかな?そうしたら夕食がてらワイン飲めそうなのに・・・


わからない・・・シンちゃんがわからない・・・


パンとワインでいいの・・・?おつまみとか、おかずの方が良くない??でもシンちゃん、パンがいいの~??


「月に1~2回、会社帰りに習いに行って、ワイン飲んでこようと思ってるんだよね。」


そして結局、シンちゃんはレッスン料については触れないままでした。ユリナさんに怒られると思って言えなかったのでしょうか。いいですけどね。ユリナさん、もう知ってますしね。


さて、シンちゃんが123クッキングを申し込んだのは遡ること数年前、秋だったか、冬だったか。


その後、コロナウィルスが猛威をふるいました。


「コロナになって、123クッキングがワインの飲み放題やめちゃってさ。ワインが飲めると思って習うことにしたのに。」


え~~?かわいいお姉さんは?キレイな先生・・・じゃなかった若いお兄さん先生は?知らない人と話すのを頑張るんじゃなかったの?パンが作りたいんじゃなかったの??


ユリナさん、内心おかんむりですけど。


さらにその後、シンちゃんは在宅ワークになりました。たまに会社へ行くこともあったので、ユリナさんは123クッキングへ行くことを勧めました。12万円、勿体ないですからね。


「うーん、ワインバーもないし行く気しないんだよね~・・・チケットの有効期限は延びてるから、そのうちね・・・」


え~~・・・シンちゃん・・・動機、ブレブレじゃない!ワイン?ワインがそんなに飲みたかったの?


ワインなんて、12万円あればいっぱい買えるじゃない!セイコーマートで買えばいいじゃない!!600円とか700円も出せば720mlの買えますけど!?


結局シンちゃんはその後一度も123クッキングへ行きませんでした。12万円、勿体ないですよね。シンちゃんのブレ加減に、呆れまくるユリナさんでした。

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