夏夜に君を想う。

花枯

夏夜に君を想う。

僕は夏が嫌いだった。

毎日蒸し暑いし、汗で服はベタベタになるし、虫は出るし、やる気は出ない。

外に出るのも面倒で、ずっとクーラーの下でダラダラと過ごす。

ただただ人生を浪費していく、そんな自堕落な自分のことも大嫌いだった。


君は夏が好きと言った。

一年で一番青春を感じるのが夏だって、君は言った。

いつも笑顔で、みんなと仲良くしている君は、僕から見ても輝いて映った。

僕とは違う君が、心の底から羨ましかった。


君が一緒に夏を好きになろうって言った。

独りだった僕の手を君は勝手に引っ張ってくれた。

夏へ連れ出してくれた。

一緒にお祭りに行った。歩きすぎて足が痛くなった。

一緒に海に行った。日焼けのせいでお風呂に入るときは苦労した。

一緒に花火をした。線香花火で勝負すると僕はいつも負けた。

一緒にアイスを食べた。僕はよくお腹が痛くなった。


何もない日でも、君は僕を連れて、二人でお話もたくさんした。

君のことを知れることは、少し楽しかった。

僕のことを知ってくれることも、少し嬉しかった。


夏の最後に君は僕のことが好きだと言った。

秋になると引っ越してしまう君は、たくさん泣いた。

だから僕は笑ってと言った。

君はいつもの笑顔を見せながら、バイバイって言った。


僕は夏が好きになった。

一番青春っぽいから好きだ。

お祭りに行くのも、海に泳ぎに行くのも、花火をするのも、夏らしいイベントで青春を謳歌していると感じるから好きだ。

でも、なんでだろう。

好きなのに、なぜか物足りなかった。

心が満たされなかった。

去年の夏は楽しかったはずなのに。


君とお祭りに行ったことが楽しかった。浴衣姿で綿飴を頬張る君が好きだった。

君と海に行ったことが楽しかった。僕に水をかけてイタズラしてくる君が好きだった。

君と花火をしたことが楽しかった。線香花火に見惚れる君が好きだった。

君とアイスを食べたことが楽しかった。どれにしようか迷っている君が好きだった。


僕は君が好きなんだ。

僕は君と過ごした夏が好きだったんだ。


二人でよくお喋りした公園にやってきた。

ふと見上げた夜空は、雲ひとつ無く、無限の星々がとても綺麗だった。

この夏の夜空も、君と一緒なら好きになれただろうか。

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夏夜に君を想う。 花枯 @hanakare

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