第54話 同じ寝室。広央の思い
その日の夜。
キヨおじさんとユキは自分たちの家にとっくに戻り、家には清香と広央とイサだけだ。
この辺の家は、夏になると窓なんてみな開けっぱなしだ。
広央の家も、居間の掃き出し窓をあけて風を通している。
汐風が天然のクーラーになって涼しい。
子供部屋では広央とイサが隣どうし布団を並べている。
3歳と8歳の時に出会って一緒に暮らすようになって以来、寝るときはいつも子供部屋で一緒だ。
困った問題が起きている。
広央も15歳になり、イサと一緒の部屋で寝るのはどうなのだろう…と考え始めた。他所の家の話を聞いてみても、男と女のきょうだいは中学生くらいを境に部屋が別々になっていく。
この家に子供部屋は一つしかない。
寝る時だけイサを母の部屋で…と思ったが、母は普段からイサをあまり近寄らせたがらない。
提案さえ出来ない雰囲気だ。
だとしたら、自分が寝る場所を居間にすればいいのか。
けれどイサには、なぜ寝るときだけ場所を別々にしなければならないのかが理解できず、広央から離れるのを嫌がった。
この機微な問題はユキにもキヨおじさんにも、小春おばさんにもどう相談してよいか分からず、結局今日にいたるまで広央とイサは一緒の部屋で寝起きしている。
「あの柱、ほんとうに神さまが遊んだのかな?」
隣の布団からイサが囁くように尋ねた。
夏の夜の帳の中でも、イサの白い肌と髪ははっきりと見える。
「ああ、きっとそうだよ。昔からの言い伝えだから」
そんな風に答えながら、広央は別の事を考えていた。
イサの長い髪は、なんでこんなに綺麗なんだろうと…
神之島は海岸側に大きな岩屋がある。
波の浸食で出来た洞窟で、古くからの信仰の場所でもある。
洞窟の中に入ってしばらく進むと「天の御柱」が現われる。
直径2メートル程の柱で、奇異なのはその高さだ。
何十メートルもの高さのある天井に向かって、まっすぐ伸びあがっている
洞窟内の開けた場所のほぼ中央に、まるで舞台上の意図した造形物のように存在している。
そしてこの御柱にはある言い伝えがある。
遠い昔、男女一対の神様がこの島に降りたった。
2人は洞窟の中に入り、やがてこの柱を見つけた。
神さま達はまだ子供だったので、柱の周りをくるくる回って無邪気に遊んだ。
すると2人はいつの間にか大人に成長した。
お互いの姿に見惚れた神様は、今度はゆっくりと柱の周りをまわり、婚姻する事にした。
そして子孫を産みこの島が始まったのだ。
今日、広央はイサと二人で神話に倣って柱の周りをくるくると廻ってみたのだ。
もちろん、急に大人になったりはしなかったけれど。
『あの柱を一緒に廻ると、将来結婚するなんてみんな言ってるよな…』
仲間内で、学校で、まことしやかに囁かれている噂だ。
中学生ともなると急に異性を意識しだす。
この恋愛スポットに、密かに意中の相手をさそったりするのだ。
広央がふと横を見ると、もうイサは寝息を立てていた。
布団から手を出してその頭をそっと撫でる。
寝室はいつか別々にするだろう、でもまだだ。
当分はこのままでいいや…
そんな事を考えながら自らも眠りに落ちていった。
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