第49話 「死体」の正体


山小屋でお藤所有のスマホから、朝陽が連絡を取った。

(渋々ながらお藤も貸してくれたのだ)


程なくして猪狩隊の大人が駆けつけ、ぐったりとした光輝をおぶった。

優もおぶわれて、一緒に山を降りることになった。


緊急事態なので早鷹組の途中リタイアとはされず、山狩りは一時中断との裁定。

朝陽と陸、北斗とサジは皆がいるキャンプ設営地に戻り事の次第を伝える。


雨が完全に止んで太陽が昇ったら、山狩りの再開だ。


太陽が光った。



荒鷲組、早鷹組。

一斉に山小屋に向かってスタートダッシュした。


もうタイムオーバーの正午まで時間もないのだ。

お互い捕虜を取ったりなんだりの駆け引きは一切なし。

場所はわかっているのだ、後は総勢で床をひっぺがしでもして、先に見つけ出した方が勝ち!



こうして双方山小屋になだれ込んだ訳だが…


コオオオオ…という気炎と共にお藤が妖気を噴出させていた。

(※念のために言っておくが比喩表現)


ただでさえ気に入らない子供という存在に戸口を突破された挙句、屋内をひっかきまわされているのだ。

「お前ら将来ロクなことになりゃしないからね!あたしらの子供時代はもっと大人の言うことをちゃんと聞いたもんだよ!!まったく今のジャリめらは…」


喚き散らすお藤を完全無視して、そう広くない山小屋内を子供らは泥棒さながら引っかき回している。

「どこだー“死人”!」と叫びながら。



必死に探すユキたち荒鷲組を尻目に、広央達早鷹組はお互い意味ありげに目配せしあった。

そしてそーっと、山小屋の外に出た。



大雨が降ったのが嘘のように、空は青く澄み渡っていた。

早鷹組の面々は、改めて真剣な面持ちでお互いの顔を見合った。


「みんな、いいか…」

広央がメンバーに覚悟を促す。

誰も何も言わず、ただこれから始まる激烈な戦いを思い浮かべ、震える身体を何とか抑えながら頷く。

「よし…行くぞ」

広央もリーダーらしく戦いの覚悟を決めた。



山小屋の中では相変わらず必死に探し回る早鷹組と、気炎を吐くお藤とで狂乱状態だ。


そこへ広央がそーーっと戸口から中を覗き込む。

そして「お藤、お藤…こっちこっち」と手招きする。


ギロリとお藤がにらむ。

早鷹メンバーはおびえて広央の背中に隠れた。


「い、いや、ちょっとさ…手伝って欲しい事があってさ(う、いかん目が真っ赤…怒れる王蟲かよ…)」


「手伝い…?なんだい、あたしを騙そうってんじゃないだろうね…巨大マツタケ?どこにあるんだい」


お藤は不審がりながらも子供たちの案内についていく。



一方、ユキたち荒鷲組は相変わらず山小屋内を暴きまくっていたが当然“死人”らしきものなぞ何処にも見当たらない。


ユキが腕組みをしながら考えた。

『こんだけ探してないなら無いんだろ…そもそも“死人”って何らかの隠喩だろ…死人…生きてない人間…今ここにいない人間…!』


「あっ!お藤がいない、どこ行った!?」

ユキが思わず叫ぶ。

憎々しげに自分たちを監視していたはずのお藤が、いつの間にかいなくなってるのだ。


「なんかさっき、ヒロ兄たちが連れてったよ」

荒鷲組のメンバーが答える。


「ヒロのやつ…!!おい皆、追うぞ!」

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