第47話 嵐の中で

◆◆

「うわ、今絶対近くに落ちたよな!」

陸が叫んだ。


ピカッと空が光ったかと思うと、すぐにゴロゴロガッシャーンという大きな落雷音が響き、陸と朝陽をビビらせる。


二人は引き続き山小屋の裏側で待機していた。

空模様が怪しくなりいよいよ雨になっても、どうにも妖怪お藤の鎮座している小屋には入りづらい。

雨が止んでくれるのを祈りつつ、ただ時間が過ぎていく。


「光輝と優どうしてんだ?どっかで雨宿りとかしてんのかな?」

朝陽はここを離れる時の光輝の辛そうな顔を思い出しながら言った。

さすがに一人で行かせるのは不安なので、優を付き添わせたわけだが。


リーダーである広央の指示は『4人一緒に協力して“宝”を運び出す』だ。


けれど非常事態発生。

光輝の体調は限界で、広央達のいるキャンプ地に駆けつけて相談することもままならず、この中で一番年上の朝陽が決断を下した。


「やっぱヒロ兄のとこ行って、相談するべきだったんじゃね?勝手に決めちゃってさ」

陸が降りやまない雨を見ながら言った。


「しゃーないだろ!光輝も失格にしたくないって言ってたし!」

そう言いながらも、朝陽は自分の下した決断に自信を無くし始めていた。


光輝の発疹はあきらかに尋常な状態ではなく、本来なら一も二もなく大人を助けに呼ぶべきなのだ。

けれど山狩りは失格になってしまうのか…?いやでも病気だからそこは考慮してもらえるのか?何よりヒロ兄ならどうするのだろうか?



「あー!!もう!」

朝陽は不意に叫んだ。

スマホ禁止の山狩りルールが恨めしかった、自分じゃどうしていいか分からない。

ヒロ兄に相談したいのに!



◆◆



「おいヒロ?」

ユキが声をかけるが反応がない。

ただ虚空を見つめているようにしか見えず、まるでここに意識が無いかのようだ。



広央の異変に気づいた和希が、ウォーターガンを放って駆けつけてきた。

「どうしたの?ヒロ兄?」

そっと腕にふれて揺すってみる。



「あっ、ああ、大丈夫…」

夢から抜け出たように広央がハッと気付いた。

『あれ、俺今なにしてるんだっけ…?』


ポツッ


雨粒が頭に落ちて、冷たい感覚が身体を通って行った。

ここは山の中で、今まさに山狩りの最中である事をはっと思い出す。


さっきまでの感覚…あれは誰かが助けを求めている…?


『…だめだ!今は山狩りの最中なんだ!きっと思い過ごしだ、気弱になるからそんなことを考えるんだ!』


広央は心に引っかかる何かを無視して、再び山狩りに集中することに決めた。



◆◆

 

「戻って、道を探して…」

聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を絞り出して、やっとそれだけ光輝が言った。

そして優を見て少し笑みを浮かべた。


「お前って、口を利かない変な奴だけど…訓練はいっつも人一倍頑張ってるもんな…」


「!」

優は目を見開いた。

頼られている。

“口を利かない変な子”“気味悪いやつ”そう言われている自分が、頼られているのだ!


優は大きくうなずくと、一目散に走り出した。



山で道に迷った時は、まず迷った地点にまで戻る。

最悪でもむやみに歩き回ったりせず、冷静になり周囲の地形をよく観察する。

教えられ、実践もしてきた知識だった。

時折聞こえる激しい落雷音と雨による視界不良と、何よりも光輝の痛々しい発疹という非常事態でも優は忠実に教えを実践した。

『はやく、はやく皆のところに行って知らせないと…!』


『はやく、はやく…!』


山路は泥でぬかるんで、時折足がとられそうになる。

それでも構わずひたすら走り続けた、なんとか道を探して。


どれくらい走っただろうか、優の目に見覚えのある大木が見えてきた。


二本の大きな杉の大木。

根っこがまるで繋がっているかのように生えていて、“兄弟杉”と呼ばれている大木だ。


『あ、ここに戻ってこれたんだ!!』

嬉しさと興奮で心が爆発しそうになった。

その瞬間、周りの景色が反転した。


泥に足を滑らせたのだ、この辺りは勾配のきつい斜面になっていて晴天の時でさえ慎重になる場所だ。


声を上げる暇もなかった。

優の身体はあっという間に斜面を転がり落ちていった。


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