第46話 迷いの中、広央
突然の雨にユキも広央も、その他メンバーも慌てて木陰に避難して一つに固まった。この時ばかりは一時休戦。
皆が皆、不安そうに空を見上げる。
「おいヒロ、北斗はどこにいるんだよ?大丈夫なんだろうな!?」
ユキが広央の横に来て問い詰める。
「いや、一応は大丈夫な場所だけど・・」
と言いつつ不安な広央。
雨足はますます激しくなってきている。
次の瞬間、全員がびくっとなった。
大きな落雷の音が聞こえてきたのだ。
『優たち、無事“宝”を運んでるのか…?』
暗い色の空を見上げながら、広央は思いを巡らせていた。
キィーーーーーーーーーーーーーーーーン…
それはかすかな“音”のようなものだった。
音というより振動、震えのようなもの。
けれど広央には確実に感じられた。
隣のユキには全く聞こえていないようで、荒鷲組のメンバーと討議している。
広央の他に気付いている人間はいないようだった。
皆ただ雨や雷にばかり注視している。
彼も最初気のせいだろうと、無視しようとした。
けれどダメだった。
その音の振動の中に、あきらかに心を不安にさせるものが混じっているからだ。
『これって、何だろ?…“かなしい”?“こわい”?』
彼はテレビの中での大怪我をするシーン、暴力のシーンが嫌いだった。
本当に自分まで痛くなるような気がするのだ。
ばっかだな、あれはテレビの中の出来事だろ、作り話じゃん。
そうユキにからかわれるのだが確かに痛みを感じるのだ。
その感じと似ている、皮膚から痛みや辛さが入り込むような感覚…
◆◆
激しい雨と風の中、優は周囲に目を巡らせた。
雨で視界が悪いのもあるが何かおかしい。
いつもの訓練で山の道はよく知っているのだが、あきらかにいつもとは違う見覚えのない風景だ。
今周囲にあるのはよそよそしく聳え立つ木々と、岩と泥の塊。
彼は自分がまるで異世界に来てしまったかのような錯覚に陥った。
『“道迷い”だ…!』
優は心にどっと焦りが押し寄せてくるのを感じた。
『なんで?どこで…?』
いつもと違う状況、焦り、悪天候が判断を狂わせたのか。
慣れ親しんでいるはずの山が急によそよそしく、まるで敵になったかのようだ。
雨はますますひどくなってくる。
光輝の足が完全に止まってしまった。
痛みに限界が来ていたのだ、その上雨に濡れて急激に体力が奪われた。
その場にしゃがみ込み、完全に動けなくなっている。
『どうしよう…』
道迷いの時はまず迷った地点に戻る、というのが定石だが優は既にパニックを起こしかけていた。
冷静に道を探すことなど出来なくなっている。
そして目の前には動けなくなっている光輝。
『どうしよう…』
優は、自分でも気づかないうちに目が涙であふれている事に気づいた。
『どうしよ、ヒロ兄…』
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