第45話 風雲急
広央側の陣地(昨日のキャンプ場所)の真ん中にぽつんと、一つのテントが張られている。
その周りを早鷹組メンバーが取り囲み見張っている。
テントの中に捕虜がいるであろうことは一目瞭然だ。
広央はそこから少し離れた場所で、大きな木の根っ子に悠々あぐらをかいて座っていた。
彼の計算ではもうユキ達は焦ってこちらに向かって来るはずだった。
何せタイムリミットは正午ぴったりと決まっている。
宝を見つけても捕虜が取り戻せなければ負けなのだ。
もっとも…
『荒鷲組のやつら、“宝”の正体に気付いてないみたいだったな』
広央は一人ほくそ笑む。
そこに賭けての分隊行動だった。
あの時土壇場で“死人”の謎かけを解いた。
おそらく間違いない。
あとは優たちが上手くやってくれればこっちの勝ちだ。
「ねえヒロ兄、ユキ兄達ほんとに来るかな?」
いつの間にかメンバーが数人周りに集まってきていた。
「おーい、ちゃんとテント見張ってろって。そろそろあいつらも来るこ…」
広央がふと目を周囲に巡らした。
このキャンプ地は少しばかりの平地があるだけで、周りは鬱蒼とした木々に囲まれている。
攻めるのは容易だが守るのは不利。
周囲の木の陰から、わずかに少し服や頭がはみ出している。
不思議なものでそれを皮切りに、今まで全く気付かなかったあちこちに既に荒鷲組の面々が潜んでいるのがわかった。
広央は今度はテントに目をやった。
見張りはばっちりだ、付け入らせる隙はない。
『ふっふっふ、奴らもバレバレの攻撃なんかして来ないだろ…』
そう思った瞬間、まさにバレバレの攻撃を仕掛けて来た!
荒鷲のメンバーが手に手にライフルを持って、文字通りの正面攻撃だった。
もちろん本物ではなくウォーターガン、つまりは水鉄砲なのだがこれが実際にサバイバルゲームにも使われるような本格的なやつで、飛距離は4mにもなる。
しかも
「いててて!!目にしみる!!」
どうやら炭酸水を仕込んでいるらしく、広央含め早鷹組は阿鼻叫喚だ。
こうなると攻撃側は面白くなってどんどん噴射しまくる。
その時荒鷲組のメンバーが、広央に狙いを定めた。
すかさず、和希がそのメンバーに思いっきり炭酸水を噴射する。
「わ、何すんだよ和希!」
「ゴメン、誤射だ」
思いっきりすました顔で和希が答えた。
こうして早鷹組は逃げ惑って、ついにテントの見張りはゼロになった。
荒鷲組の数人が目配せしあった、今なら誰も気付かない。
テントの入口をばっとめくり上げて…思わず叫んだ。
「誰もいないじゃん!!」
◇◇◇
優と光輝は山道を下っていた。
大人に連絡せずに下山すればルールに引っかからず棄権扱いにならない、ヒロ兄にも迷惑をかけないと光輝が主張したためだった。
一人では当然心配なので、優が付き添うことになったのだが。
光輝の具合がだんだん悪くなっていった。
発疹はますます赤みが増して、見るのも痛々しい。
それでもふらふらしながら何とか歩いていたが、とうとう道端にしゃがみ込んでしまった。
優はどうすることもできず、ただ一緒にそばに座り込んだ。
こんな時でも声を発することができず、ただ寄り添うより他はない。
しばらくして光輝が立ち上がった。
「行こう…」
優も立ち上がったが…その時不意に空が暗くなった。
急に冷たい風が吹き、灰色の雲が空一面を覆う。
海からの湿った空気が上昇気流に乗って雲を作り、雨を降らす。
この母山は実に天気が変わりやすいのだ。
そして間もなく冷たい雨が二人の頭上を襲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます