第44話 異変


時間は少し前に戻る。


諦めずに宝を追うことを決めた広央。


騙されて進んだ10キロを戻っていたらタイムオーバーになってしまう。

そこで改めて地図を広げ仔細に眺めてみる。


そして今だ謎の“死人”という宝…

暗号なのか隠喩なのか。

先に解けばユキを出し抜ける。


『死人…死んでる人か…生きてない人間…』


「あ!」

突然広央が叫んだ。

「どうしたのヒロ兄?」

皆が不思議そうに広央の顔を見つめる。


「わかったぞ…!よし、これでユキを追い抜ける!」



◇◇◇


鳶が空を悠々と飛んでいる。

その直下の山小屋では相変わらずお藤と荒鷲組のメンバーが、中に入れろ入れないの攻防を続けている。


そして裏の岩場からこっそり様子を伺っている優、光輝、朝陽、陸の4人。


広央は作戦として分隊行動を選択した。

要は二手に分かれての陽動作戦だ。

広央達は油断を突いて捕虜を取り、陣地に戻ってそこから動かない。


ルール上捕虜は絶対に取り戻さないといけないから、その内焦って場所を離れるだろう。

そこを狙って先ほどの4人が山小屋に入り宝を手に入れる…という作戦だった。



岩場の4人の耳に、お藤と荒鷲組の攻防と舌戦が聞こえてくる。

お藤はこうと決めたら頑として動かず、周囲の人間を恐ろしいほど消耗させる。

小春が婦人部会でお藤とやりあった日には、必ず日本酒を一合あけるほどだ。


こうしている間にもゲームオーバーの時間が刻一刻と近づき、ユキ達にも焦りが見え始める。


広央の思惑通りだった。

ユキ達は宝を探すことを一旦中断して、捕虜を奪還する事に舵を切った。

4人の耳に、ユキたちの背中に散々ネガティブワードをぶつけるお藤の声が聞こえてくる。


そしてしばらくの後、静寂が辺りを包んだ。


4人はまたこっそりと様子を伺った。

どうやらユキたちは皆、行ったようだった。


『優達も待ってるからな~』


あの広央のフェイクのセリフを信じてくれているなら、こっちに早鷹組の面々が張り付いている事に気づいてないはずだ。

まさに宝を先にゲットするチャンス。



「誰から入る?」

朝陽が皆に聞く。


「誰って…」

皆がお互いの顔色を伺った。

妖魔のいる小屋の扉なぞ誰も開けたくはないのだ。

足に重りがついがごとく全員動けない。


「仕方ないじゃん、さっさと行こうぜ!ほら行くぞ!」

朝陽が陸の腕を引っ張った。

「お前が行けばいいじゃん!」

二人はいつものケンカを始めてしまった。


ケンカはヒートアップしてしまい、こうなると石の無口さを誇る優と具合があまりよくない光輝には手が付けられない。

その時、優が光輝を見て驚愕した。


光輝のTシャツの袖から出ている両方の二の腕に、赤色の発疹が痛々しく全面に広がっていたのだ。

優の目にも単純な腹痛などでは無いことが即座に分かった。

光輝はもう立っていることも辛そうで、その場にしゃがみ込んだ。

ケンカしている二人もやっと気付く。


「光輝…大丈夫か…?」

「すっげ痛そう…」

朝陽と陸が交互に声をかけたが、光輝はもう返事をする元気もないようだ。

子供ら4人は途方に暮れた。


さすがのお藤もこの緊急事態になら協力してくれるだろうと、お藤のスマホで連絡を取ってもらうことを朝陽と陸が判断したその時。


「ダメ…、呼ばないで…」

光喜が絞り出すような声で訴えた。


「ヒロ兄…失格になっちゃう…」

光輝は痛みをかみ殺すようにして、やっとそう呟いた。


その場にいた3人はその言葉にハッとした。

やはり物言わぬ優も、真剣に光輝の顔を見つめる。

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